■高知学園高知中学校の生徒たちが国際宇宙ステーションとの交信に成功
2月13日、高知県高知市の「高知学園高知中学校」で、ARISSスクールコンタクトが実施され、高知中学校の生徒たちが国際宇宙ステーションに長期滞在中のESA(欧州宇宙機関)のオランダ人宇宙飛行士であるアンドレ・カイパース宇宙飛行士(PI9ISS)との交信に成功しました。
四国地方でのスクールコンタクトの実施は、2005年7月4日の「高知県高知市立横浜小学校」以来で約6年半ぶり。今回が2例目です。
過去国内でおこなわれた外国人宇宙飛行士との英語による交信は、大部分がNASA(アメリカ航空宇宙局)のアメリカ人宇宙飛行士の方々によるものです。
これまでNASA以外の宇宙飛行士との英語の交信をおこなったケースは、
- 西東京市立保谷小学校
(2009年9月26日、ロバート・サースク宇宙飛行士(VA3CSA)、カナダ人、カナダ宇宙庁)
- 西堀榮三郎記念探検の殿堂
(2011年2月22日、パオロ・ネスポリ宇宙飛行士(IZ0JPA)、イタリア人、欧州宇宙機関)
の2例しかなく、高知中学校のスクールコンタクトはこれらと同様、珍しいケースの一つとなりました。
このスクールコンタクトは、前回の「高知市立横浜小学校」で実施のスクールコンタクトと同様、JA5GSG大村育子さんが中心となって、高知県支部のメンバー他の協力を得て準備が進められたものです。
JA5GSG大村さんに、準備から成功に至るまでの貴重なレポートをいただきましたのでご紹介いたします。
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高知中学校生徒11名が、オランダ人宇宙飛行士のアンドレ・カイバース宇宙飛行士と無事交信し成功裏に終了することができました。今回のARISSスクールコンタクトは、昨年末にキャンセルが出たため決まったもので、軌道条件の関係で短期間の準備で実施することとなりました。
●短い準備期間の壁
ARISSスクールコンタクトが高知でおこなわれるのは、2005年7月に「高知市立横浜小学校」で実施以来2回目です。ARISS Japanから「キャンセルがあったので高知県内でスクールコンタクトを実施しませんか」という打診があってから、すばやく対応し高知県支部主催とする旨を役員会で決定しました。前回の横浜小学校以外の学校を選定するため、近郊の南国市や香美市の教育委員会を訪ねて、前回のアルバムや急ごしらえの資料を提示しながらスクールコンタクトの説明をし理解を求めると共に、市内の各小学校の実施意向の打診について協力をお願いしました。
返答には日数を要しましたが「3学期は卒業式など行事が多く先生方はとても忙しく、良いお話だけど実施は難しい」と実施を希望する学校がありませんでした。
そこで対象を私立の「高知学園高知中学校」に定め直して、同校の高橋啓明校長先生にお目にかかりました。資料を提示してスクールコンタクトの説明を終えると「ちょうど今、中学3年生が宇宙の授業をしているので、授業の一環として取り組もう」と快諾をいただきました。実施校が決定したこのときは、安堵と同時に計画の一歩が踏み出せた喜びで勇み足になったものです。
衛星の追尾システム、音響設備などはARISS運用委員の安田 聖さん(7M3TJZ)の助言をいただいて「関西ARISSプロジェクトチーム」の支援を受けることにしました。
そうこうしているうち師走に入ってしまったのですが、学校側は冬休みを控えて期末試験、新年度入学試験の準備などで多忙を極め、また学校内ではインフルエンザが猛威をふるい1週間の学級閉鎖になるなどのやむを得ない事情も重なって、2011年内の準備はそれほど進展のないままに新年を迎えることになりました。
●年明け、刻一刻と近づく実施日に向かって
年明け早々の松も取れてない1月6日に、初めてのスタッフ会議をおこないました(写真右)。
この日の会議では、まず次のようなことを決定しました。
- スタッフの連絡と意思の疎通をスムーズにおこなうためにメーリングリストを作成する。
- 生徒たちの勉強会については毎週木曜日におこない、冬本番さなかの2月は日暮れが早いので下校時の安全を確保するため午後4時45分に終了する。
この会議のさなか、一部のスタッフは寒風が吹きすさぶ屋上で、アンテナ設置場所の確認やステーが張れるかなどの確認をおこない、また同軸ケーブルの長さの調査や電源の位置、必要な道具のリストアップするなど調査に奔走しました。
その後も、計画表に従いながら学校側と微調整を繰り返す日々が続きました。
1月12日には、ARISS Japanから交信可能な6つの候補日程が届きました。学校側の要望を考慮して、第一希望に2月17日を選んで返信しました。
続いて高知県に、今回のスクールコンタクトの後援依頼の文書を提出し後援をいただきました。
1月17日には四国総合通信局に直接出向き、臨時に開設する社団局の開設申請書を提出しました。臨時局のコールサインは「8N5KOCHI」を要望し、同時に実施当日の監視をお願いしました。
臨時局8N5KOCHIの免許状は約1週間で届きました。
木曜日の生徒たちの勉強会では英語のレッスンや個人指導をおこない、マイクの使い方は藤戸高知県支部長自ら丁寧に説明してマイクの使い勝手を覚えてもらいました。
そして交信順位を決めて質問時間を計りながらの練習ですが、生徒たちは回を重ねるたびに著しく成長する姿を見ることができました。
実はこのころ、学校全体にスクールコンタクトの意義が伝わったようで、高知中学校に隣接する姉妹校の高知学園高知小学校の校長先生から4名の小学生メンバーを加えてもらえないかという申し出を受けました。
しかしすでに交信メンバーは中学生だけで満員状態です。残念ながらご希望に添えない旨を了承していただく事となりましたが、意欲のある小学生たちを迎えることができなかったことは少し残念です。
●実施日決定は直前の週末!!
そして実施日直前の2月10日に、正式にスケジュールが確定しました。しかし事前に知らされていた候補日のうち希望順位5番目だった2月13日に決定したというのです。
ARISS運用委員の安田 聖さんからは「宇宙飛行士の船外活動のスケジュールのためです」と説明を受けました。やむを得ない事情ということでした。
交信時間が19時以降になること、中には遠くから通学している生徒たちもいるので、保護者の方々への連絡を学校に依頼しました。
実施日正式決定の2月10日は金曜日、翌日2月11日は建国記念日の祝日、そして日曜日と休みが続いています。学校やスタッフ間の連絡などで一度に気ぜわしくなりました。
またこの週末は天気も下り坂の予報でした。支援をお願いした「関西ARISSプロジェクトチーム」が当日準備する機材設営作業についても心配しつつ、いよいよ交信の当日を迎えることとなりました。
●本番の時、近づく
そして交信当日は2月13日は予報通りのあいにくの天気「雨」でした。午後「関西ARISSプロジェクトチーム」のメンバーが機器一式を持参し、学校正面玄関に到着したころ学内は授業の真っ最中です。
関西の応援メンバーは雨の屋上でルーフタワーへアンテナの設置を進めますが、屋上の養生シートは雨をたっぷり含んで、スタッフの靴の中はびしょびしょ、上着もずぶぬれでした。作業終了後、ストーブの傍に立ったメンバー衣服からは湯気が勢いよくたち昇るほどでした。
一方、交信場所の地質学教室では、同校の増田先生はじめ数人の先生方が、週末返上で作成した立派な仕上がりのステージに驚きとても感動しました(写真右上)。新居浜の博物館まで買いに出かけた宇宙食のサンプル数種類も展示されていました。その熱意に生徒たちも、スタッフ一同も良い雰囲気の中に浸りながら最終確認作業を続けました。
17:00には開講式をおこないました。まず主催の藤戸高知県支部長の挨拶。来賓として高知県の私学・大学支援課課長、高橋校長先生の挨拶がありました。
式典の終了後、生徒たちは最終の練習をおこない本番の時を待ちました。
●緊張の本番
刻々と時間は迫ってきた交信10分前に、交信に挑戦する生徒たちがステージに上がり、タイムキーパーの指示を待ちました。
そして定刻になり、タイムキーパーのキューを出す指先を見てNA1SSをコールしました。1回目のコールでは応答がなかったのですが、2回目にコールバックがあったので、19:18:09より交信を開始しました。国際宇宙ステーションからは、アンドレ・カイバース宇宙飛行士の生真面目で丁寧な回答がクリアに返ってきました。
交信は四国総合通信局の監視体制のおかげで、妨害も受けず順調に進みましたが、11名の質問で時間切れ、フェードアウトとなりました。
予定していた全員の質問が出来なかったのは少し残念でしたが、参加した生徒たちにとって、宇宙との距離をぐっと縮めた10分間であったことは間違いないことでしょう。
●ご協力をいただいた皆様方に
今回のスクールコンタクト実施に際して、多くの方々にご支援、ご協力をいただきました。高橋校長先生をはじめとした高知中学校の教職員の皆様、スクールコンタクトの運用に関するさまざまなアドバイスをいただいたARISS運用委員の安田 聖さん、準備に奔走してくださった高知県支部メンバーの皆様、および多大な支援をいただいた「関西ARISSプロジェクトチーム」のメンバーの皆様、そして当日144MHz帯の監視に協力してくださった四国総合通信局電波監理部様ほか、ご協力をいただきました全ての皆様にこの場を借りて心より御礼申し上げます。
(レポート:JA5GSG・大村育子さん)
(2月16日)
(2月17日更新)
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