千葉県浦安市立富岡小学校の子供たちが
国際宇宙ステーションと交信に成功!
10月24日、千葉県浦安市の富岡小学校の子供たちが、ARISSスクールコンタクトで国際宇宙ステーションとの交信に成功しました。
このページでは、今回の富岡小学校のARISSスクールコンタクトのとりまとめをおこなった、矢口仁志さん(JH8HKG)からいただいた、富岡小学校のスクールコンタクトへの取り組みに関するレポートを紹介いたします。
【子供たちに本物の体験を……】
私がARISSスクールコンタクトをやろうと思ったきっかけは、JARL NEWSの記事でした。
それまで私は富岡小学校のPTA会長を3年間努め、やっと大役を終えほっとしている時期でした。そんな中で、スクールコンタクトの記事が目にとまりました。
「これは素晴らしい夢のある企画で、本物の体験を子供たちにさせることができる」と直感的に思いました。
当時より富岡小学校では、地域に開かれた学校作りを実践しており、積極的に地域や保護者とのコミニケーションをおこなってきました。 |
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私が「ARISSスクールコンタクトをやりませんか」と学校に話を持ちかけたときは、さすがに当時の校長先生も意味がわからず当惑気味でしたが、説明をして行くうちにすぐに理解していただき、実現に向けての第一歩が始まりました。
その後、ARISSスクールコンタクトの講習会が、JARL埼玉県支部主催で東松山市でおこなわれることを知り、さっそく申し込みの連絡をしたところ、JARL埼玉県支部長の坂田OM(JA1TY)より、すぐに参加OKの連絡をいただきました。
当日は、ARISSスクールコンタクトの第一人者である、ARISS運用委員の安田 聖さん(7M3TJZ)が講師で、細部に渡り詳しく説明してもらいました。
講習終了後、安田さんと会場でお話しすることができました。
当時は「今申し込んでも実施は2年位先になるだろう」とのお話で、私が躊躇したところ、安田さんの方から「いずれにしても、申し込まないと始まらないので申し込んでみては」と言われ、それから1年8カ月の待機と準備期間を経て、このたび、スクールコンタクトをおこなうことができました。
【プロジェクト本格始動!】
スクールコンタクトのお話が、にわかに現実味を帯びて来たのは、今年の5月中旬ごろからであったと思います。
それまで、ポツリポツリとしか来なかった安田さんからのメールがしだいに多くなり、「これは本格的に学校と実施の方法について早急に協議しなければ」と思い、校長先生と相談した結果、学校として正式の、臨時クラブとして活動すると言うことで決まりました。
また、すぐに担当の先生も決まり、6月11日がクラブ発足の日と決まりました。
そしてクラブ発足の当日、参加希望の5年、6年生の36人を中心に、保護者ボランティア、ローカル局、校長先生、教頭先生、担当の先生に加え、安田さんも駆けつけてくださり、スクールコンタクトのことやISSのことについて、パソコンで画像や音声を交えて教えていただき、とても充実した発足会となりました。
その後の活動で子供たちは、「交信班」「技術班」「ホームページ班」にわかれ、おのおのボランティアの先生に学びながら、ISSとの交信の日に備えてきました。
交信班は全員で考えたISSへの質問を選んだりまとめたりして、その質問を先生に英訳してもらったものを中心に英語を話す練習をしました。
技術班は、交信当日の機材のセッティングなどの準備をしたり、無線や電気について、小学生には少し難しいことも学びました。またラジオキットの組立てを通して、ハンダ付けや電子部品についても学ぶことができました。
ホームページ班は活動の記録を撮ったり、学校のARISSのページに載せる素材を作ったり探したりしました。またISSやスクールコンタクトについて、インターネットを活用し他校の事例も含め学習しました。
今回のプロジェクトに参加したクラブの子供たちは、今年8月中旬から土曜日を中心に活動して、夏休みも活動しました。
【交信の成功に向かって……予想もしないトラブル】
9月に入ってからは、何時順番が回ってきても良いように、各班の子供たちは毎回、本番さながらの練習を積んできました。
また、必要な書類の作成や市や教育委員会への手続きなどを、学校の協力を得て進めました。
その間、安田さんからは、さらに頻繁に連絡のメールが来るようになっていました。
10月に入り、安田さんから「10月24日の週での実施がスケジュールされそうだ」との連絡を受け、学校屋上へのアンテナ設置工事を10月3日、富小お父さんの会、ローカル各局のみなさんに、夜遅くまで手伝っていただきおこないました。
そのときは、何とかうまく動くように思えたのですがいくつかの不安があり、翌日にもう一度、ローカル局のみなさんと、アンテナとトラッキングシステムのチェックをしました。
結果はやはり「不安的中」でした。モーターが止まってしまい、あと最大仰角でタワー上部のステーワイヤーにアンテナのテールが引かかってしまうという、何とも致命的な障害が発生したのです。
モーターが止まった原因は、幸いにすぐにわかりました。コネクター内部でのハンダ付けが外れているだけとわかって少しほっとし、ガスのハンダごてを使いただちに修理。
しかしもう一つの問題は、ステーワイヤーにクロス八木のテールが引っかかること。もうこれはメインマストを長いものに交換するしか手がありません。 |
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当日は、とにかくマストだけは手に入れようということになり、その夜、急きょローカル局がトラックを出してくれて、買いに走ってくれました。
そのメインマストを学校にあずけて、翌週金曜日13時からメインマストの交換と、クロス八木支持用のグラスポールの交換作業をおこなうことを決め、その日はやっと帰宅し、後日、学校関係と無線関係のメーリングリストで、アンテナの再工事を金曜日におこなうことを流して、協力者をもう一度募りましたところ、当日は平日にもかかわらず8人もの応援が集まりました。
メインマストの交換、グラスポールの交換と順調に作業が進み、ほぼ完成に近づき、トラッキングシステムの調整でアンテナの仰角を動かしたのですが、今度はクロス八木、グラスポール、モーター締め付け部が何とスリップし調整が外れてしまいました。
これも原因はすぐにわかりました。クロス八木は本来、リレー切り替え用の電源線と給電線を、テール部より引き出し配線するようにとなっており、再工事でそのように配線しましたが、同軸ケーブル(8D2V)と電源線の8mの自重がかかり、アンテナ締め付け部とモーター締め付け部がそれに耐えられずスリップしたのです。
いろいろ考えるも、そのままでは解決策が見つからず、最大で1.5dB利得を損なうことになりますが、アンテナ支持のグラスポールからの引き廻しに変更し、反射材でスリップマークを貼り付けて、夜でもスリップが確認できるようにしました。
本当は、アンテナ直近は細い柔らかな給電線や電源線にしてあげれば良かったのかも知れませんが、交信が迫っているのでこれで良しとしました。
SWRも1.1と良好ですし、何といっても重要なトラッキングシステムが順調にスムースに動くようになったので、これで行こうと決めました。
【交信の日、近づく!】
翌10月15日、安田さんからメールで「10月28日に交信日が決定した」との知らせがあり、すぐに学校関係、無線関係のメーリングリストで交信日決定メールを流し、同時に当日お手伝いいただける方の募集をおこない、当日の活動でクラブの子供たちにも通知。28日の交信に向け準備を進めることとなりました。
学校も、さっそく保護者に見学希望者の案内をおこない、教育委員会等への連絡も終わり、残り1週間半で細部を詰めて準備する予定で進んでいました。
私もすっかりその予定で考えており、仕事のスケジュールもそれに合わせて進めていました。
子供たちにも、10月22日の総練習から本番まで1週間あくので「質問を忘れないように」と言って15日の練習を終えて、帰宅し少しのんびりしていました。
【想定外の交信日変更】
翌週は少し仕事が忙しく、「18日にISSが軌道を変える」という連絡もいただいていましたが、そのことはすっかり忘れていました。
すると10月20日、安田さんから「ISSの軌道変更がうまく行かなかったようで、もしかすると富小のスケジュールも変更になるかもしれない」という連絡がありました。
安田さんは「28日の実施を強く希望して交渉を進めている」とのことでしたので、少し安心していたのですが………。
10月22日午前5時、就寝中の私の枕元で携帯電話が鳴り響きました。ビックリして電話を取ると、安田さんの声ではありませんか。
「これは何かあったな」と電話の声に集中すると「NASAの決定により28日には交信ができなくなった」というのです。安田さんによれば「24日ならスケジュールを組むことができる。キャンセルなら何カ月か先になる」とのことです。
そう。「今、決断せよ!」ということです。
その瞬間わずかの間に考えたことは、これから何カ月も子供たちのモチベーションを維持していくのは大変。かといって突然の、翌々日への実施変更ではあまりにも時間がない。
でも、ここまで来たら「やるしかない!」と思い、これまで力を貸してくれた仲間のパワーを信じ、10月24日の変更でお願いしました。
それからが本当に大変でした、まず絶対に来てもらわなくてはならない人への連絡をし、24日は私自身も仕事で京都に出張が入ってましたが、事情を説明して仕事の予定を変えてもらったり、何よりも「学校の対応が間に合うか」それが一番心配でした。
朝、学校へ行き予定変更の話をしたとき、教頭先生は信じられないような顔で唖然とされてました。
しかし「もうやるしかない!」の一言で、できる限りのことはやろうと言うことになりました。
局免は関東総合通信局から20日付けで、8J1UTEの臨時局のコールをいただいていましたので、あとは実施の段取りだけとは思いましたが、何せあまりにも急な変更で、どこまでできるかまったくわかりませんでした。
10月22日の段階で学校は、モバイルマガジン、ホームページ、緊急連絡網を駆使して、見学希望の保護者に交信日の変更の案内を流しました。
私は、メーリングリスト、電話連絡により当日のスタッフの確保をおこない、機材の準備を開始しました。
【交信成功……大喜びの子供たち!】
当日、会場準備ができる時間は午後2時からと決まりました。当日は平日ですので、学校は通常通り授業がありますが、学校の協力で会場となる図工室と体育館は、早めに準備開始できることとなりました。
当日14時には、お手伝いの保護者やローカル局10人が集まってくれて、クラブの子供たちと一緒に準備を開始し、16時には地元ケーブルテレビ局のスタッフの方が準備に入りました。
当日は3階図工室での交信のようすを、離れた体育館まで映像と音声を地元ケーブルテレビの協力で送り、図工室に入れない大勢の見学者のためにプロジェクターを使って画像を映し出す設備準備したり、ISSの説明をするための準備をしたりして、当初から計画していたことのほとんどを短時間のうちにやってしまいました。
午後6時にはすべての準備、飾り付けが終了し、いつでも開始できる状況となっていました。
まもなく安田さんも到着。教育委員会などの来賓の方々もこられました。体育館にはすでに650人の来場者が集まり、このイベントの持つ意味の大きさを感じました。
そしていよいよ、交信前のセレモニーが体育館で開始され、来賓挨拶、スタッフの紹介から始まり、子供たちのこれまでの活動が報告されました。ひと通りのセレモニーのあと、交信時間が近づきクラブの子供たちと関係者が交信会場の図工室へ移動しました。
その間、体育館ではスタッフによりISSの説明や交信に使う機材の説明などがおこなわれ、交信開始の時を待っていました。
図工室へ移動した子供たちと関係者は所定の位置に座り、各自担当の再確認をして、アンテナ担当の諸岡さん(JA1XTF)がISSの軌道を確認。調整終了後、一番目に質問する子供がマイクの前に座り、メインオペレーターの伊藤さん(JE1OWA)がタイムキーパーの古河さん(JG3KGX)からの合図でISSをコールした瞬間、NA1SSからメリット5で8J1UTEのコールバックあったときは、会場から一斉に歓声が上がりました。 |
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それから子供たちの質問に、第12次クルーのビル(ウイリアム・マッカーサー)宇宙飛行士が、次々とていねいに答えてくださり、無事ISSとの交信に成功することができました。
交信を終えた子供たちは、ほっとした表情でマイク席を立っていきました。
その後、昨年9月にスクールコンタクトに成功した、青山学院初等部(JE1YAV)と石井さん(JH1VVW)より、交信成功のお祝いのメッセージを2mバンドでいただき、緊張の中、交信を終了した子供たちも、お祝いのメッセージに笑顔が出ました。
すべての交信を終了した後、子供たちは大勢の保護者や関係者の待つ体育館へ向かい、感想の発表や報道関係者からの質問に答えたりしました。
20時39分からの交信開始と言うこともあり、この時点では夜も遅くなっており、宇宙ステーションからの回答の和訳については、後日学校からプリントして流すことで会場のみなさんに案内し、浦安市立富岡小学校のスクールコンタクトを無事終了することができました。
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翌日は新聞各紙に載った自分たちの記事を見て、参加した子供たちを始め各クラスでは、大はしゃぎだったそうです。
大きなプロジェクトが終わって、改めてこのプロジェクトの持つ意味や凄さを感じているところです。
実施にあたり、協力して頂いた各機関及び浦安市教育委員会、学校、ローカル局のみなさんに感謝いたします。
また、ARISS運用委員の安田さんには、準備から最後まで大変お世話になりました。
本当に、ありがとうございました。
■使用した機材■
★メインシステム |
トランシーバー |
IC-910D |
アンテナ |
オスカーハンター 144HS12 1本 |
ローテーター |
G5500 |
同軸ケーブル |
8D2V(25m) |
制御ソフト |
CALSAT |
パソコン |
ノートパソコン(Windows2000、clock800MHz) |
制御ボード |
PIC NIC |
★サブシステム(受信信号確認用) |
トランシーバー |
IC-910D |
アンテナ |
3BAND GP |
同軸ケーブル |
8D2V(27m) |
★その他 |
音声収録用ピンマイク |
小型6Chミキサー |
アンテナ用監視カメラ |
モニターテレビ |
アンテナ用照明 |
500W、150Wハロゲン投光器 |
照明用発電機 |
900W |
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