ビッグ・ディッシュ・プロジェクト公開実験大成功!/5.6GHz帯落成検査に合格:
晴天に恵まれた3月3日、KDDI茨城衛星通信センターに、宇宙や衛星通信に興味を持つ小・中学生やアマチュア無線家約150名を集めて、ビッグ・ディッシュ・プロジェクトの公開実験が実施されました。この見学会は同センターの協力のもとで実施されたものです。
佐藤和雄センター長は見学会の打ち合わせ会議の際に「この施設に、今回のような大人数の見学者を一度に受け入れるのは初めてです。しかし各地から多くの皆様をお迎えするからには、センターとしては最大限のおもてなしをして、来所いただいた皆様に十分に満足していただいてお帰りいただきたいのです」と語っていましたが、そのとおり、KDDIのスタッフの方々の周到な準備のもとで見学会はおこなわれました。
▲午前の部参加者の記念撮影 |
▲午後の部参加者の記念撮影 |
午前の部は、8N1EME(移動する局)のPR運用などでプロジェクトに協力している、JARL茨城県支部の見学希望者約50名が施設の見学をおこないました。
間近に見る巨大な32mカセグレン・アンテナや、局舎内に設置されたEMEの送受信設備に見学者の方々は大いに興味を抱いていたようです。
午後の部は、事前登録をいただいた一般アマチュア無線家50名(グループA)と、小・中学生特別枠にご応募いただいた小・中学生と保護者、さらに茨城高専の先生と学生さんも含めた50名(グループB)の2組に分けて実施しました。
グループAとグループBには運用実験の見学の前に、佐藤和雄センター長ならびに同センターの酒井さんによる、KDDI茨城衛星通信センターの施設紹介、JH2COZ井原康博さんによる月面反射通信の解説、JH1KRC渡辺美千明さんによる「Project
BIG-DISH」の企画から実施までの経緯、センター施設見学などが時間をずらしておこなわれました。
月面反射通信の解説や「Project BIG-DISH」の説明では、特にグループAに参加のアマチュア無線家のみなさんは、たいへん熱心に話しを聞いていたようで、講演したお二人も予定時間をオーバーするほどの熱演ぶりでした。
この日の月の出は17:00ごろです。見学はグループA・Bをさらに2班に分けておこなう予定でしたが、結果的には全員が局舎内に入り月のエコーに耳を澄ましていました。
局舎内に見学者の方々を迎え、オペレータの渡辺さんが昇り始めた月に向けて17:30から、1200MHz帯の電波を発射。約2.5秒後に返ってきたエコーを聞いた見学者たちからは、感激の表情が感じ取れます。
そして渡辺さんのCQに対して、アメリカ・インディアナ州のK9SLQ局からSSBのクリアーなコールバックがありました。1200MHz帯の信号は月から反射されたものとは思えないほど強力で、59と言ってもいいほどです。
オペレーターの渡辺さんは、見学するグループBの小・中学生たちを、隣に座らせて名前を聞いて、アメリカの交信相手局に伝えて、その名前を呼んでもらいました。自分の名前を月からのこだまで聞いた子供たちにとっては、恐らく忘れられない思い出になったことでしょう。
▲見学中の局舎内は熱気と緊張に包まれていた。 |
▲月から子供たちの名前が返ってきた。 |
また、もう一つのサプライズがありました。横に座った中村洸友くん(三重県松坂市、11歳)が1アマの免許の所持者であることを聞いて、渡辺さんはこのとき、洸友くんにマイクを譲ったのです(写真下)。小学生による32mディッシュでのEMEオペレートは過去に前例がありませんし、今後も(たぶん)ないことでしょう。
Project BIG-DISHメンバーとJARL事務局に向けて、後日、会場に同行したお父さんの中村裕紀さんから、次のようなお礼状が届きましたのでご紹介しましょう。
幸運をいただきました中村です。土曜日には小学生枠での見学をさせていただきました。衛星通信の発祥の地での見学に参加できると言うことになり、心より感謝いたします。
当初、我が家では参加などできない(距離もあるし)と思いながら、夕食時に「このようなイベントを全国の高校生(無線クラブ)や中学生の皆にもっとPRできると良いのになあ〜」なんて会話をしていたら、子供が「行ってみたい」と言い出し、我が家からの参加を急にお願いすることになりました。
私も心の準備もなにもなく、突然の旅行が決まり、その実感は高まるばかりでした。
EMEですからCWくらい受信できないと見学していても「何も判らない」、「どこの国かも判らない」では寂しいからということで、参加に向かう道中はCWの受信の練習をしながら茨城に向かいました。
名前の紹介と言うことでしたが月面反射通信のDX局への紹介だったので、「自分のコールサインも知らせたいなあ」なんて言っていました。
まあ、名前を乗せていただけるだけでも「素晴らしい想い出になるなあ〜」と喜びました。
公開運用で家の子の順になった時、コールサインを伝えたいということをメイン・オペレーターの方に伝えたら、「ライセンスは?」と聞かれたので、「1アマです」と答えましたところ、4回位確認で聞き返された後……突然の「オペレーター交代!!」
思わぬ状況に感激と不安がいっぱいで、子供も私も目を白黒状態でした。全く英語でのQSOの練習もしていない!! 果たしてどうなるのか?
普段の交信はFMがメインでSSBには慣れていない、緊張のあまり平均変調度を上げるほどの元気が無い、声にまどろっこしさもありましたが、メイン・オペレーターの方の親切なサポートの中、無事に素晴らしい体験、経験をさせていただきました。とにかく、突然の幸運といいますか感激には、お世話をいただきました皆様方に感謝するのみです。
オペレートされた渡辺様、その他関係の皆様には、「心より感謝」の旨をお伝えいただきたくお願いいたします。
この度は本人も一生の思い出になることは間違いありませんし。私も強力なSSBによるエコーには感動させられました。どうもありがとうございました。
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こうして、ビッグ・ディッシュ・プロジェクト運用実験見学会は無事大成功を納めました。
当日のようすは、3月3日19:00のNHKニュース(テレビ)や、3月5日22:00のNHKジャーナル(NHKラジオ第1)でも紹介されました。
★5.6GHz帯の運用に向けて!
運用見学会が無事終了後、3月3日〜5日早朝まで引き続きプロジェクトのメンバーによる運用がおこなわれ、144/430/1200MHz帯は5日早朝の運用をもって終了となりました。そして、残る5.6GHz帯の運用に向けて準備が進められました。
5.6GHz帯はIBA-4のカセグレン・アンテナ自身がカバーする周波数レンジに当たり、このアンテナが持つ最大限の性能を引き出すことができる周波数といえます。
5日午前には、副反射鏡部に設置した144/430MHzフィード部(ループアンテナ)やLNA、導波口部に設置した1200MHz帯フィード部(3mパラボラ)などの撤収工事をおこないました。
スタッフの一人、JJ1NNJ関さんによると、「設置工事は4日もかかったのに、取り外しの工事は2時間足らずで終了。ひもがゆるんで何回も張り直した144/430MHz帯ループフィードなどが撤収されて、もう登ることもない主鏡の上から、もとのまっさらになった、サブレフを見上げた時には、ちょっとこみ上げるものがありました」とのこと。
また取り外し工事終了後にかけて、センター付近は春の突風に襲われた模様です。工事に当たったメンバーは「無事工事が終了できたのはお天気の神様が味方してくれたんですね」と語っています。
▲5.6GHz帯設備の親機 |
▲5.6GHz帯設備のパワーアンプ |
無線設備の準備は5日午後〜6日早朝にかけて、突貫工事でおこなわれました。電波障害の有無の確認、電力やスプリアスの計測などが夜を徹して実施され、6日午後、いよいよ落成検査に望みました。
関東総合通信局の検査官により、無線設備の確認、電力の計測などがおこなわれました。途中、送信機の調整などに若干手間取って、144〜1200MHz帯の落成検査の際よりも時間がかかりましたが、無事落成検査に合格し、関東総合通信局の検査官からプロジェクト代表の渡辺さんに、本免許が手渡されました。
▲落成検査のひとこま |
▲無事落成検査に合格。免許が手渡された |
この日の夜の運用は当初予定されていませんでしたが、センターのスタッフの協力を得て、20時ごろの月の出を待ちIBA-4のディッシュから5.6GHz帯の電波を月に向けて発射しました。しかし短時間のこともあり、この日は残念ながら5.6GHz帯での交信成功には至っていません。
今後、閉所を前にしたセンターの工事などの関係で、5.6GHz帯の運用は3月24日・25日に予定されています。なお、この3月25日の運用をもって、8N1EMEの月面反射通信運用実験はすべて終了となります。
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