■
東海市立横須賀小学校の子供たちが国際宇宙ステーションと交信に成功
2月9日、愛知県東海市立横須賀小学校の児童たちが、国際宇宙ステー
ションに長期滞在中のトーマス・マーシュバーン宇宙飛行士(KE5HOC)との
交信に成功しました。このスクールコンタクトは、東海地方本部・愛知県支部のサポートで実施
されたもので、15名の児童が交信に挑戦しました。今回の横須賀小学校の
スクールコンタクトでは、国内のマスメディアに加えて、海外マスコミ
(韓国放送公社:KBSテレビ)による取材もありました。
マイクコントローラーを努めた、JG2GFX種村一郎東海地方本部幹事長に
準備から当日に至る詳細なレポートをお送りいただきましたのでご紹介します。
☆ ☆
●はじめに
JARL東海地方本部では2005年に開催された「愛・地球博」会場における
ARISSスクールコンタクト実施に向けて「東海地方本部ARISSスクールコンタクト推進協議会」
を組織し、側近に実施された2011年の「瀬戸市立西陵小学校ARISS」をはじめとする
愛知県5回と岐阜県1回を含む合計6回のARISSスクールコンタクトを東海地方で実施
してきました。
その後、実施に向け機会を探していましたところ、2012年4月に磯愛知県支部長
より「東海市アマチュア無線非常通信協力会」を中心として開催されたD-STAR講習会
の席上で、事務局のJL2RHI城所 卓氏が東海市教育委員会教育部長であることを聞き
および、東海市開催が有力であることが伝えられました。
さっそく、支部長に鋭意実施に向け活動をお願いした結果、教育委員会を通して
校長から積極的に手を挙げていただいた東海市立横須賀小学校での実施が確定しました。
●申請書の提出から事前研修まで
7月にARISSへの書類作成に着手、東海市教育委員会および東海市の協賛を
受け、10月に正式書類を提出しました。コールサイン東海市にちなんで、「8N2TOKAI」
を希望することが決定されました。
過去の実施例からも、書類提出後、早くても半年から1年位後での実施予定と考え
ていましたが、12月6日にメンターである安田 聖さん(7M3TJZ)から、2月か4月に
実施可能という嬉しい連絡が届きました。小学校では4月には入学式や職員の異動
予定等を配慮して、2月4日からの週に実施希望と決定しました。
予想外の早期実施に向け、田中潤也校長先生を中心に全校をあげて実施に
動き出しました。12月の終業式の席上で予告が発表され、1月には参加希望児童が募集された
結果、5・6年生の15名のチャレンジャーと質問内容が決定しました。
実質上の準備期間が1カ月余りしかありませんでしたが、幸いにも英語の
取り組みに積極的な小学校でしたので、竹内英之教務主任を中心に質問の英語
訳文の作成・発音練習等を全て対応していただけることになりましたので、2回
の事前研修会を計画しました。
第1回研修会は1月19日に実施しました。チャレンジャーとその父兄および
関係者にARISSスクールコンタクトの説明、FMラジオによる電波探索ゲームを楽しみ
ながら電波の存在やその強弱を実感しました。
チャレンジャーの児童たちの英語質問はほぼ完成の域に達していることには
全員が驚かされました。
またこのとき同時に、実行委員の皆さんがアンテナの設置条件や同軸ケーブルの長さ、
引き回し経路等の確認等をおこないました。
第2回研修会は2月2日に実施しました。 JAXA小山正人氏を招聘してISS
と日本実験棟「きぼう」や宇宙飛行士に関する講義を受講し、チャレンジャーの児童
たちはより深い知識の習得を目指しました。また、無線機を前にマイクを持った
リハーサルを体験してさらに自信を深めていきました。
これに先立ち午前中は、実行委員会と東海市アマチュア無線非常通信協力会の
皆さんによりアンテナおよび追尾装置の設置がおこなわれ、いよいよ2月4日の週の
実施を待つばかりとなりました。
●いよいよ本番
実施日が2月9日(土)18:58と決定されました。会場の体育館は、PTAのご協力による
舞台のディスプレーを含めすっかり準備が整えられていました。実行委員会もさっそく無線
設備の設置と調整に取りかかり、16時には第1回リハーサルを実施することができました。
そのころには会場には学校関係者が約400名、近隣の皆さんが約50名、関係者を含め
約500名もの皆様にお集まりいただきました。
17時からは塩崎隆資教頭先生の司会進行による開会式が始まりました。東海総合通信局
無線通信部陸上課長千田信久氏、東海市教育委員会教育長加藤朝夫氏ほか東海市議会議員、
教育委員会関係者を来賓にお迎えし、校長先生、木村東海地方本部長の挨拶に続き教育長
からのご挨拶をいただきました。来賓の方々からは、「この素晴らしい機会を得られて
本当に幸せです。子供たちにとって一生の思い出になることでしょう」との励ましのお言葉
をいただしました。
セレモニーのあと、磯 直行愛知県支部長によるスクールコンタクトについての説明に
続き最終リハーサルもすませて、いよいよ交信開始時間を待つのみとなりました。
予定時刻の1分前からISSをコールしますが予定時刻になっても応答がなく、少し焦り
を感じていたところ、ノイズ混じりにISSからのコールがかすかに聞こえて来ました。その時、
リハーサルに備えにマイクコネクターが接続されていない事に気が付き、慌ててコネクター
を接続しました。そして、トーマス・マーシュバーン宇宙飛行士(KE5HOC)から応答があった
時には胸をなでおろしました。この第一声が入感するまでの緊張感は、いつもの事とは
言え例えようのないくらい強いものです。
交信開始当初、あまり良くなかった信号強度と了解度は徐々に向上し、チャレンジャー
の児童たちの質問が始まりました。トーマス宇宙飛行士の丁寧な明快でゆっくりとした回答
はとてもありがたく感じたのですが、さらに児童たちの落ち着いた交信には心から感心して
しまいました。余裕のある時間内での15名全員の交信が無事終了しました。そしてその後、
会場は大きな大きな拍手に包まれました。
交信後、教務主任とALTのディナさんを含む先生方により回答内容の日本語翻訳が
おこなわれ、会場内で発表されました。時間差がなく、宇宙飛行士の回答内容が日本語
で理解できる事はとても大切であると実感しています。
そして木村時政東海地方本部長による修了証の授与に続き、閉会式と記念撮影がおこなわれました。
チャレンジャーの児童たち感想は、「交信できて本当に嬉しい」、「最初応答がないので心配した」、
「一生に一回しかないチャンスが良かった」などなど。中には「将来宇宙飛行士になりたい」と言った声も聞かれました。
●KBSの取材
今回のARISSには朝日新聞、中日新聞をはじめ、地元コミュニティ放送の
知多メディアスによるFM実況放送やCATVのネット配信など多くのマスコミ報道
がありました。特に今回は来日中の韓国放送公社(KBSテレビ)が今回のスクール
コンタクトの取材を希望している、JARL事務局広報課から連絡があったのです。
KBSテレビの取材の趣旨は、「特集ドキュメンタリー 電波4部作」
の番組中に「人間の生活に欠かせなくなった電波」を企画意図に、歴史の長い
日本のアマチュア無線の状況を取材するというものでした。
当日はディレクター、カメラマン、通訳の3名が来場して、アンテナの設置
状況やARISSを実施する方法や目的を尋ねられました。交信中の取材はもちろんですが、
交信終了後には多くのチャレンジャーの児童たちも質問をしていました。はきはきと
受け答えしているチャレンジャーのようすがとても印象的でした。
韓国内での放映は4月末の予定だそうです。残念ながら日本での視聴は難しい
と考えていますが、アマチュア無線やARISSスクールコンタクトをどのように捉えて
どのように理解をして報道するかは興味津々です。
●おわりに
今回も東海総合通信局の特段のご配慮をいただきました。会場である体育館横
に不法無線局探索車(DEURAS-M)を配備され、混信等に対し万全の体制で望んでくださいました。おかげで安心して交信に専念することができた事は特筆に値するもので感謝に耐えません。
このARISSスクールコンタクトの主役は言うまでもなく未来を担う子供たちです。
理科離れが叫ばれて久しい中、少しでも宇宙や理科に興味を抱き、その夢を大きく
脹らませ実現してくれることを願って止みません。
文末になりましたが、ARISSスクールコンタクト実施について、東海総合通信局
はもとより、東海市教育委員会、横須賀小学校、東海市アマチュア無線非常通信協力会
はじめその他多くの関係者の皆さまによるご協力とご支援を賜りました。心よりお礼を
申し上げます。
(レポート:JARL東海地方本部幹事長 種村 一郎(JG2GFX))
(2月27日)
|