■豊中市立東丘小学校の児童が、油井亀美也宇宙飛行士と交信に成功
8月18日大阪府豊中市立東丘小学校でARISSスクールコンタクトが実施され、同校の小学4年〜6年生の15名の児童たちが、国際宇宙ステーションに7月23日から5か月間長期滞在される、油井亀美也宇宙飛行士との交信に成功しました。今回のスクールコンタクトは日本では81回目、大阪府では8回目となります。
会場では宇宙から届く油井宇宙飛行士の生の声に、約600人が聞き入っていました。交信は、国際宇宙ステーションが大阪を通過する20:42:30秒から約10分間の予定でおこなわれました。
昨年12月に、ARISS運用委員の7M3TJZ安田 聖さんからの紹介で、関西ARISSプロジェクトチームの田中 透代表(JR3QHQ、大阪府支部長)らが、同校に話を聞きに行きました。実は同校では、5年生の児童が「ariss.jpのホームページ(ARISS運用委員の安田さん制作の、スクールコンタクト情報ページ)」を見ていて、内容を印刷して校長先生に渡していたことから、スクールコンタクトの内容についてはすでに知っていたようで、すぐに申請書を提出することになったそうです。 同校ではこのときすでに、やる気満々のようでした。
3月末には、8月17日の週の油井宇宙飛行士との交信スケジュール枠に入ったことがわかり、学校に連絡しました。4月に入ると、校長先生が代わられたということで、あらためてスクールコンタクトの説明にでかけたそうです。このとき、PTAのお母さんたちには、これまで実施したスクールコンタクトのビデオを見てもらい、大張り切りのようすだったそうです。
そして、本番に向けての大まかなスケジュールが決まってきました。
- 6月に創立50周年の式典でARISSのPRをする。
- 町内会でもPRする。
- 毎日放送の取材が決定している。
- 7月初めに子どもたちと質問を決める。
- 7月中旬に勉強会を開催。
- 8月初めに2回目の勉強会を開催。そして本番
7月13日には全校児童に対して、ARISSや宇宙・アマチュア無線についての授業をおこないました。
7月15日には交信する子どもたちへのレクチャーとリハーサルをおこないました。
7月17日は台風が近づく中、関西アマチュア無線フェスティバルの準備に池田市民文化会館へ行き、関西ARISSのメンバーとの昼食のときに、田中代表から「島村さんにコントロールオペレーターをやってほしい」と言われました。「なんで自分なのか?」について何度もいろいろな方に聞いてみましたが、自分にも「一度はやってみたい」との思いがあり引き受けることにしました。
猛暑が続く8月10日09:00から、メンバー8名で体育館近くのプールの更衣室屋上に、6mのルーフタワーとクロス八木アンテナを設営しました。アンテナ設置の当日は、豊中市の取材もあり、後日その模様は市のホームページに掲載されました。予備としてナガラ電子のQFHアンテナも体育館の近くにひとまず仮設しました。
「本番の日程は8月11日の朝に決定する」と聞いていましたが、実際の発表は夕刻となり、8月18日に決定しました。ちょうどこのころ、「油井宇宙飛行士搭乗のソユーズロケット打上げや、油井宇宙飛行士の6年間の訓練のようす」をNHKが特集していたので、大きな興味を持って見ました。交信の前に、油井宇宙飛行士の声などを知っておくことが重要だと感じたからです。
当日は、14:00に関西ARISSプロジェクトチーム、高槻クラブ、JAMSAT、ARISS運用委員の安田さん、茨木工科高校の学生ら約20人が集まり準備を開始しました。
軌道情報からISSの飛行ルートの登りはじめのところに、高層マンションがあることがわかりました。計算では、最初の2分間は繋がらない可能性が高いのです。対策として体育館の北端に円偏波無指向性のQFHアンテナを移設して、無線機の所でオペレーターがアンテナを切り替えることにしました。
また当日は、近畿総合通信局のDEURAS-Mにより今回も電波監視をしていただきました。
準備を終えてオペレーター(私)と質問する児童15名が参加して、リハーサルをおこないました。私自身、国際宇宙ステーションとの交信は初めてです。「すべて日本語でOKかな?」と思っていたのですが、NA1SSはアメリカの局なので「繋がるまでは英語で」というレクチャーを受け、英語はあまり堪能とは言えないので、カンペを作り覚えることにしました。しかし、練習を繰り返していて、「子どもたちよりも声が小さい」と、メンバーからダメだしを食らいました。最悪なことに緊張してシドロモドロになったりして、メンバーからは「どうなることか?」と心配してもらいながら、刻々と時間が迫ってきました。
本番の時刻を前にして、会場には続々と人が集まり。観衆は報道陣含め約600人。小学校のセレモニーの後、最終リハーサルが入念におこなわれました。これは余談ですが、リハーサルの際に交信のお相手をする「ニセ宇宙飛行士」(!?)の、ユニークな回答が子供たちに受けていたようです。このとき「ニセ宇宙飛行士」は2名待機していましたが、1号はしゃべり過ぎで交信が長くなるので、2号に選手交代して入念なリハーサルをおこない本番に臨みました。
そしていよいよ定刻がやってきました。先の「ニセ宇宙飛行士2号」によるアナウンスでカウントダウンをおこない、20:42:30から呼び出し開始しました。
「NA1SS This is 8N3HO. How Do You Copy Over?」
ところが、応答がありません。
このとき使用中のアンテナはQFHアンテナです。ブレークタイムをあけて、何度も呼んでも応答がありません。約2分が経過したころ、どこからか「アンテナを切替えよ」との神の声が聞こえてきたので(!?)、急遽切り替えたところ、2度目の呼びかけで、かすかに油井宇宙飛行士の声が聞こえてきました。
「NA1SS This is 8N3HO. 油井さん、こんばんは、初めまして。聞こえますか?」
「よく聞こえま〜す、本日はよろしくお願いしま〜す!」
待望のスクールコンタクトが始まりました、そして、油井宇宙飛行士のてきぱきとした回答のおかげで、子供たち全員がスムーズに質問ができ大成功に終わりました。
最後に油井宇宙飛行士から、「また地上で会いましょう。大阪、大好きです」とメッセージをいだきました。
油井宇宙飛行士と日本の子供たちとのアマチュア無線による初交信ということもあって、多くのマスコミが取材に駆けつけてくれたようです。取材があったテレビ局は、毎日放送、朝日放送,関西テレビ放送、よみうりテレビ、テレビ大阪で、新聞関係は共同通信を通じて全国へ、朝日新聞などの大阪地区版に掲載されていました。
なお、今回のスクールコンタクトをサポートしていただいたスタッフの皆さん、ありがとうございました。
レポート:JM3DUR島村隆久さん (NPO 日本アマチュア衛星通信協会(JAMSAT)理事))
(9月2日)
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