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愛媛県西予市立城川小学校の児童が国際宇宙ステーションと交信に成功
2017年12月11日、愛媛県西予市立城川小学校でARISSスクールコンタクトが実施され、同校の児童が国際宇宙ステーションに長期滞在中のESA(欧州宇宙機関)のイタリア人宇宙飛行士であるパオロ・ネスポリ(IZ0JPA)宇宙飛行士との交信に成功しました。
国内でのスクールコンタクト成功は全国で91例目にあたり、四国地方管内での実施は、2005年7月4日の高知県高知市立横浜小学校、2012年2月13の高知学園高知中学校以来で3例目、愛媛県内では初の実施となります。
城川小学校のスクールコンタクトのとりまとめをおこなった、西予市教育部教育総務課学校再編係の小田原 誠さんに、城川小学校のスクールコンタクトに関する詳細レポートをお送りいただきましたのでご紹介します。
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はじめに、西予市立城川小学校について紹介します。
奥伊予と呼ばれる城川町の、4つの地区にある小学校「遊子川小学校・土居小学校・高川小学校・魚成小学校」が平成28年4月1日に統合してできた小学校で、開校当時の児童数は102人という小さな学校です。
■ARISSスクールコンタクト実施までに
平成26年度の後半だったでしょうか?
「ARISSスクールコンタクトって知ってるか?」「はて、なんですか、それ?」「実はなぁ……」
そんな会話がきっかけだったと思います。
「すげぇ、アマチュア無線で宇宙飛行士と交信ができるんだ!! これは子どもたちにぜひやってほしい!!」と、熱く盛り上がっていました。
当時、西予市小学校再編計画に基づく市内小学校の統合を進めていた時期であり、開校記念事業でやってみたいと考え情報を収集すると、申請から1年かかるとのことから、平成27年度に開校する小学校では難しくなり、ならば次年度に開校する“城川小学校”でとなりました。
そこで、統合前(平成27年度)に4校の校長にARISSとは何か、事業の意義等について相談をしたのですが、『宇宙飛行士の映像がないなら、交信しないで見ているだけの低学年にとってはどうなのか』という意見もあり、まずは新しい校長先生の許可を得てからという状況になりました。
開校後、改めて校長先生に相談を持ちかけたところ、学校内部で慎重に協議・検討をいただいて、ようやく実施に向けての舵を切ることができました。
■申請してから
平成28年8月にARISS運営委員会へ申請をおこない、「あわよくば何とか年度内に順番が来ないかなあ」と思っていたのですが、全世界で順番を待っている子どもたちがたくさんいるのですから、そう簡単にはいかないものです。
とりあえず、実施がいつ決まっても良いようにと、ARISSとは何か、当時の在校児童たちに事前説明をおこないました。
実施にあたっては、日本アマチュア無線連盟愛媛県支部支部長の薦田直志さん(JH5SAL)ほかの方々のご協力をいただけることとなり、機材関係の準備についてはひとまず安心しました。しかしながら、愛媛県では初開催、四国では3番目の事例ということで、初体験で手探りの状況で作業を進めていく中、鳥取県西伯郡大山町立大山小学校や大阪府高石市の高石市中央公民館の2つの挑戦を視察に行きました。
実施がいつなのか、交信相手も分からず、ただ順番を待っているだけの日々でありましたが、JAXAの金井宇宙飛行士が12月にISSへ上がるという情報から、日本語での交信または英語で交信と申請していたことから『もしかしたらこのタイミングか!?』などと勝手に想像したものです。
■やっと日程調整が
日程の連絡がないまま、しだいに学校をはじめ職場内や周囲からも、「いつになるん?」「本当にやるん?」などと不安が漂っていたそんな中、6月にARISS運用委員の安田 聖さん(7M3TJZ)から「11月か12月のどちらが良いか」との連絡が入り、小学校と協議して「12月で希望します」と返事を送り、次の連絡を待ちました。
11月に入って、「12月の11〜16日の間で希望日を出してほしい」ということで、15日金曜を第1希望として報告しました。
■交信児童の調整
10月にはPTAの役員を交え1回目の運営委員会を開催し、交信会場の配置やアンテナの場所等について協議し、これまでの事例から交信する児童を何人にするかという重大な課題については、学校側に一任いたしました。
後日、5、6年生の希望者21人でおこなうと連絡がありましたが、短い交信時間であることや山間部という地理的条件から、最後まで交信ができない可能性が十分にあるということを理解した上での人数となりました。
■英会話及びマイク操作練習
交信予定がパオロ・ネスポリ宇宙飛行士(イタリア)か、マーク・ヴァンデハイ宇宙飛行士(アメリカ)ということから、質問を外国語指導助手と先生のご協力で英文化していただき、発声練習も授業の合間をぬって取り組んでいただきました。
途中アマチュア無線のマイク操作についても練習する機会を提供いただき、発声練習と合わせて練習しました。
■ドタバタ開始
第1希望日に実施できるものと完全にタカをくくって準備を進めていたところ、急遽12月5日火曜日に『11日月曜に実施予定』の連絡が入りました。
予定していた週の中ではあったものの、希望日と異なるため、しかも土日を挟むのでドタバタと準備する状況になってしまいました。
しかも、「12月8日のスペースX社のファルコン9ロケットの打ち上げ次第では日程の再調整もある」との連絡内容にドキドキしながら準備しました。
結果的としては12月11日20:06からの交信決定となりました。
子供たちの夕食や移動手段をどうするかが課題となり、その結果、一度自宅に帰してから食事を済ませて、改めてスクールバスか保護者が連れてくるという変更で対応しました。
■アンテナや機材設置も大変
天気予報では曇のち晴れで、アンテナ設置も問題なくできると確信しておりましたが、今にも雪が降りそうな空模様が変わることなく、アマチュア無線連盟愛媛県支部の大澤恭司さん(JA5ILM)たちがクロス八木アンテナをトイレの屋上に設置していく時にはみぞれが降りだしてしまい、吹きすさぶ風の中で寒さとの闘いになってしまいました。かじかむ手を酷使し、ローター等を組み付けて作業完了です。
会場は体育館ではなく多目的ホールとし、交信中の音声を会場に響かせるためマイク機器の調整をしていたのですが、適合するケーブルがなく、急遽、現場でハンダ付け対応するなど、皆さんの発想力に感心してしまいました。
■いよいよ【8J5SS⇔NA1SS】
交信児童21人と見学児童56人、保護者他37人、行政及び関係者等で120人ほどが会場に集まりました。
交信開始時刻よりも1時間早く、催物を入れて19:00に事業を開始しました。ARISSスクールコンタクトの説明や公開リハーサル、交信する児童の代表挨拶、校長と市長からの激励のことば等で1時間を費やしました。
そしていよいよ20:06からの交信を待つのみ。正面左側のスクリーンにはISSがモンゴル上空にさしかかってきているのが映り、会場の雰囲気も交信する児童も、そして機器を操作するスタッフの緊張も高まっていました。開会の頃には、ISSは北海道上空でしたが、地球を1周していよいよ四国上空に来るという、まさに現場が宇宙とつながる瞬間が目の前に迫ってきていました。
今回のために臨時に開設した社団局は“8J5SS”で、マイクコントローラーは上口 等さん(JH5IRT)が担当していただきました。
ISSを開始時刻よりも前からコールしますが、10秒前に「みんなで声を出してカウントダウンしましょう」と呼びかけ、緊張感とともに現場の一体感を高めました。
上口さんが「November alpha 1 sugar sugar. This is 8 Juliet 5 sugar sugar. Schedule on ARISS school contact. How do you copy?Over.」とコールを繰り返すこと数十秒、無音のまま時間が経過していきます。
現場の雰囲気は『えぇ!?本当につながるの?早く答えて!!』という疑問と祈りに満ちていき、それが最高潮に達した時、パオロ宇宙飛行士から「8 Juliet 5 Sierra Sierra. This is November Alpha 1 Sierra Sierra. Over.」の声が!!
思わずガッツポーズ、誰もがヨシ!!と声を出しそうになった瞬間でした。多くの皆さんが「声が聞こえた時はとても感動した!!感激した!!」と感想を教えていただき、改めて感激しました。
子供たちは緊張しながらも練習どおり1人ずつ英語で質問を送り、パオロ宇宙飛行士からの答えを聞いていました。
正面右側のスクリーンには、今質問している児童名と質問を日本語&英語で投影し、会場の皆さんは400km上空の宇宙から聞こえる声に耳を傾け、熱心に聞いておられました。
想像よりも鮮明に聞こえる宇宙飛行士の生の声に驚いていたようです。
■21人中18人が交信成功
スクリーンに映るISSの軌道状況を見ながら、まだ次に行けるまだ次に行けると胸を高鳴らせ、迎えた18人目の質問に答えている最中にノイズが………。19人目の質問を送ったのですが、パオロ宇宙飛行士からの返答が聞けず時間切れとなってしまいました。
上口さんがお礼の挨拶を送り交信を終了しました。18人は質問できて3人が残ったことは残念ですが、愛媛県初の挑戦は無事に成功することができました。
質問を終えた子供たちの目は、達成感、満足感に輝いていました。
後日談ですが、大阪ではこちらよりも先に聞こえていたようで、山中にあるという状況下では、交信開始までにロスが生じてしまったようです。
愛媛県初開催として何としても成功したい。アマチュア無線の機器を操作する皆さんのその思いが実り、挑戦が成功しました。
■翻訳作業
交信終了後、外国語指導助手の協力で答えを翻訳しました。1人ずつ何を質問したのか日本語で皆さんに説明し、それに対して外国語指導助手から答えの概要を紹介していただきました。
現在、パオロ宇宙飛行士の会話も含めて英文化し、翻訳と合わせて皆さんに紹介できるようレポートを作成中です。
■実は生中継だったし、あの服も登場
当日は、TVを見ている市内の皆さんにも現場を体験してもらおうと、西予CATVで特別番組を企画していただき、最初から最後まで生中継しました。撮り直しできない一発勝負、ぶっつけ本番でしたので、ISSとつながって本当に安心しました。見ていた人もあの緊張感を一緒に体験し、あの瞬間は感激して涙が出てきたということでした。
西予市のゆるキャラである「せい坊」と、船外活動服(※)を着た保護者が登場し、また、宇宙に上がる直前の金井さん等身大ポスターとフライトスーツ(※)を配置し、雰囲気向上に貢献しました(※JAXAからお借りしたものです)。
■これから
貴重な体験をもとに、子どもたちの中から宇宙飛行士を目指したい、アマチュア無線について知りたい、という声が聞こえてきそうです。
私もアマチュア無線を使いますので、多くの子供たちに活動の場を提供できればと思います。
最後になりましたが、事業実施にあたり、一生に一度しかできないであろうチャンスの場を提供していただいた小学校をはじめ、大変多くの皆さん方にお世話になりました。
城川小学校や外国語指導助手をはじめ、ARISS 運用委員の安田 聖さん、アマチュア無線連盟愛媛県支部、四国総合通信局、西予CATV、視察を受け入れてくださった、鳥取県西伯郡大山町立大山小学校や大阪府高石市の高石市中央公民館、ほか多くの皆さんに感謝申し上げます。感動をありがとうございました。
レポート:愛媛県西予市教育委員会 小田原 誠さん(JG5HVU)
(12月12日、第一報を掲載)
(12月27日、詳細レポートを掲載)
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