「ふじ3号」のCWテレメトリを解読してみよう!




CWテレメトリーの解読


 JAS-2 のCWテレメトリーの1フレーム、つまり種々のデータの配列
の1回分は次のようなフォーマットで作られ、順次送信されます。フォ
ーマットの中の A,B,C,Dはそれぞれ二桁の16進数を表しており、テレ
メトリーデータです。 この数字を換算することによって衛星各部の電
圧や電流、温度などの値、つまりアナログデータと、衛星内部のスイ
ッチの状態を示すシステム・ステータスデータを得ることができます。
1Aから2Aまでがシステム・ステータスデータで、2Bから6Dまでがア
ナログデータとなります。

CWテレメトリのフレームフォーマット

フォーマット     
HI HI
1A 1B 1C 1D
2A 2B 2C 2D
3A 3B 3C 3D
4A 4B 4C 4D
5A 5B 5C 5D
6A 6B 6C 6D

6Dは送信されません


実際の送信テレメトリーの例(1996/08/20 20:10UTC)

HI HI A6 07 81 77 00 9C FD CD 0C 42 79 5D 7B 47 91 8E 9C 69 C5 C3 C4 C4 BF
HI HI A6 07 81 77 00 9C FD CD 0C 42 53 85 72 4C 91 8E 9C 97 C5 C3 C4 C4 BF


解読例はこちらです



 テレメトリデータは、テレメトリフォーマットの先頭を示すHI HIのコード
の後に、1A, 1B, 1C, 1D, 2A, 2B, 2C,というように順に48byteのテレメト
リデータが毎分約60字のスピードで送信されます。送られる情報は39
項目のシステム・ステータス、10項目のアナログデータ、7項目の姿勢
ステータス、3項目の姿勢データです。JAS-2のテレメトリデータは「ふ
じ2号」と異なり、16進数(0〜F)で送られますので注意して下さい。
 データ1フレーム分の送信が終わると、続いて次のフレームが HI HI
と始まります。

1)システムステータス
                
bit 項目 0
1A メインリレー OFF ON
DCM ON OFF
SRAM ON OFF
Packet 1200/OFF 1200 9600 or OFF
/9600 9600 1200 or OFF
JTA ON OFF
JTD ON OFF
地磁気センサー ON OFF
1B
太陽センサー ON OFF
UVC ON OFF
UVCレベル
PCUモード MANU AUTO
PCUレベル 1/2 1 or 3
PCUレベル  /3 1 or 2
バッテリモード TRIC FULL
バッテリロジック TRIC FULL
1C エンジニアリングデータ --- ---
エンジニアリングデータ
エンジニアリングデータ
エンジニアリングデータ
デジトーカモード ON OFF
エンジニアリングデータ --- ---
UVC ACT/PAS ON OFF
CPU RUN/RESET RUN RESET

1Dのbit 0から7および2Aのbit0から7はエンジニアリングデータ
bit0がLSB,bit7がMSBです

2)アナログデータ
2A、2B エンジニアリングデータ
2C スピン周期
2D スピン周期
3A 姿勢系ステータス
3B 太陽角
3C 地磁気センサー Z軸
3D 地磁気センサー X軸
4A 太陽電池発生電流
4B バッテリ充放電電流
4C バッテリ端子電圧
4D バッテリ中間端子電圧
5A バス電圧
5B JTA送信電力
5C 構体温度−1
5D 構体温度−2
6A 構体温度−3
6B 構体温度−4
6C バッテリセル温度
6D 未使用 (送信されません)




アナログデータ換算式



 テレメトリデータのフレーム中のアナログデータの値を10進数に変換し
たものを Nとすると、各データの工学値、つまり電流ならアンペア、電力
ならワットで表される量とするには、次のような計算式を用います。
地磁気センサー Y軸 nT=N×490.196[nT]
地磁気センサー Z軸 nT=(N+102)×490.196-50000[nT]
太陽電池発生電流 I=0.009804×N [A]
充放電電流 I=-(2-N×0.0196) [A]
バッテリ端子電圧 V=0.10761×N [V]
バッテリ中間端子電圧 V=0.04817×N [V]
バス電圧 V=0.09804×N [V]
+5V安定化電圧 V=0.02978×N [V]
-5V安定化電圧 V=-0.05956×N [V]
+10V安定化電圧 V=0.059881×N [V]
JTA送信電力 P=6.4997×N−98.0863 [mW]
JTD送信電力 P=10^((0.04586×N+21.865)/10) [mW]
バッテリセル温度 T=-0.388375×N+81.883[℃]
構体温度−1 T=-0.388375×N+81.883[℃]
構体温度−2 T=-0.388375×N+81.883[℃]
構体温度−3 T=-0.388375×N+81.883[℃]
構体温度−4 T=-0.388375×N+81.883[℃]
JTD Tr温度 T=-0.388375×N+81.883[℃]


ここで、太陽電池発生電流はいうまでもなく太陽電池パネルから供給さ
れる電流で、日照の具合によって変化します。バッテリセル温度は蓄電
池の温度で、これが異常に上昇、下降することがないかをよく見ておく必
要があります。CWテレメトリは耳で聞いて書き取ったり、テレリーダで復
号したりした上で、換算をするなど手間がかかりますが、衛星の状態を
直接知る手がかりとなります。日陰に入ったときの温度の下降、全日照
の期間の温度の上昇など、宇宙での衛星の状況に関して面白いことが
わかります。試してみましょう。


衛星のスピン周期
 衛星のスピン周期はCWテレメトリの2Cと2Dで知ることができます。
2Cと2Dで送られてくる2桁の16進数(1からFまで)の値の合計4桁
をバイナリ変換して下記の表から読みとると、衛星のスピン(回転)周
期を求めることができます。

bit 重み 周期
2C 0 1 未使用 0
1 2 未使用 0
2
4 8192msec 1
3
8 4096msec 0
4 1 2048msec 0
5 2 1024msec 0
6 4 512msec 0
7 8 256msec 0
2D 0 1 128msec 1
1 2  64msec 1
2 4  32msec 1
3 8  16msec 1
4 1   8msec 0
5 2   4msec 0
6 4   2msec 0
7 8   1msec 1

例)2Cの値が04,2Dの値が8Fの場合スピン周期は8433msecとなります。
  (8192+128+64+32+16+1)

 

太陽角の求め方

スピン軸と太陽との角度を求めるには,3Bの値をバイナリ変換して次の表か
ら求めます。バイナリーコードに変換した値のMSBの1bitはデータ更新フラグ
(Sun Flag)でデータが更新された直後は1を出力し、データが前回のサン
プリングと同じ場合は0を出力します。したがって,太陽角は7bitのコードで出
力されます。
 衛星のDCM(衛星のコンピュータ)がONの場合は8bit全てを出力しますが,
OFFの場合は上位3bitのみを出力します。DCMのON/OFFステータスはC
Wテレメトリの1AのBit1で知ることができますので,全てが有効なテレメトリで
あるか,このステータスで必ず確認する必要があます。角度は衛星の機体座
標のX軸からの角度となりますが,センサーが10度傾いた角度で取り付けら
れていますので求めた値から10度マイナスする必要があります。

-----------------太陽角換算表(グレーコード)-----------------
コード deg | コード deg | コード deg | コード deg
0000001 27.5 | 0110001 59.5 | 1100001 91.5 | 1010001 123.5
0000011 28.5 | 0110011 60.5 | 1100011 92.5 | 1010011 124.5
0000010 29.5 | 0110010 61.5 | 1100010 93.5 | 1010010 125.5
0000110 30.5 | 0110110 62.5 | 1100110 94.5 | 1010110 126.5
0000111 31.5 | 0110111 63.5 | 1100111 95.5 | 1010111 127.5
0000101 32.5 | 0110101 64.5 | 1100101 96.5 | 1010101 128.5
0000100 33.5 | 0110100 65.5 | 1100100 97.5 | 1010100 129.5
0001100 34.5 | 0111100 66.5 | 1101100 98.5 | 1011100 130.5
0001101 35.5 | 0111101 67.5 | 1101101 99.5 | 1011101 131.5
0001111 36.5 | 0111111 68.5 | 1101111 100.5 | 1011111 132.5
0001110 37.5 | 0111110 69.5 | 1101110 101.5 | 1011110 133.5
0001010 38.5 | 0111010 70.5 | 1101010 102.5 | 1011010 134.5
0001011 39.5 | 0111011 71.5 | 1101011 103.5 | 1011011 135.5
0001001 40.5 | 0111001 72.5 | 1101001 104.5 | 1011001 136.5
0001000 41.5 | 0111000 73.5 | 1101000 105.5 | 1011000 137.5
0011000 42.5 | 0101000 74.5 | 1111000 106.5 | 1001000 138.5
0011001 43.5 | 0101001 75.5 | 1111001 107.5 | 1001001 139.5
0011011 44.5 | 0101011 76.5 | 1111011 108.5 | 1001011 140.5
0011010 45.5 | 0101010 77.5 | 1111010 109.5 | 1001010 141.5
0011110 46.5 | 0101110 78.5 | 1111110 110.5 | 1001110 142.5
0011111 47.5 | 0101111 79.5 | 1111111 111.5 | 1001111 143.5
0011101 48.5 | 0101101 80.5 | 1111101 112.5 | 1001101 144.5
0011100 49.5 | 0101100 81.5 | 1111100 113.5 | 1001100 145.5
0010100 50.5 | 0100100 82.5 | 1110100 114.5 | 1000100 146.5
0010101 51.5 | 0100101 83.5 | 1110101 115.5 | 1000101 147.5
0010111 52.5 | 0100111 84.5 | 1110111 116.5 | 1000111 148.5
0010110 53.5 | 0100110 85.5 | 1110110 117.5 | 1000110 149.5
0010010 54.5 | 0100010 86.5 | 1110010 118.5 | 1000010 150.5
0010011 55.5 | 0100011 87.5 | 1110011 119.5 | 1000011 151.5
0010001 56.5 | 0100001 88.5 | 1110001 120.5 | 1000001 152.5
0010000 57.5 | 0100000 89.5 | 1110000 121.5 | 1000000 153.5
0110000 58.5 | 1100000 90.5 | 101000 122.5 | --- ---

コードの右端がLSB,左端がMSBです。最上位のbit7は未使用です。



衛星の太陽角






DCMとCWテレメトリの関係

 衛星搭載のコンピュータ(DCM)が動作していない時には,データがとれない項目が
下記の通りありますので注意して下さい。DCMがOFFの場合この項目にはDCMが
ONのときの最終データを送り続けます。

フレーム  bit       項目
1C  0 エンジニアリングデータ
 1 エンジニアリングデータ
 2 エンジニアリングデータ
 3 エンジニアリングデータ
 4 デジトーカモード ON/OFF
1D  1 エンジニアリングデータ
 3 エンジニアリングデータ
2A 0〜7 エンジニアリングデータ
2C 0〜7 スピン周期
2D 0〜7 スピン周期


注)エンジニアリングデータ : 衛星の運用管制に必要なデータです。



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