体験運用マニュアル
一般社団法人 日本アマチュア無線連盟
<はじめに>
このマニュアルは、さまざまな体験運用のスタイルに合わせてどのようにすれば体験運用ができるかアマチュア無線家にお伝えするものです。このマニュアルを参考にして頂きお役に立てれば幸いです。
まず、体験運用の基本をここに示します。
重要なポイントは、交信の始まり(「連絡設定」)と終わりの操作(「終話」)を、アマチュア無線家が行います。
「連絡設定」とは、相手局を呼出して通話するまでの設定、「終話」とは、その相手局との通話を終了することを言います。どちらも、電波の出所と責任の所在を明らかにするために、有資格者が行います。「連絡設定」の後で、初めて体験者の送受信の操作が可能となります。「連絡設定」と「終話」は有資格者の監督下で行われますから、体験者は自ら不特定呼出(CQ)や特定局の呼び出しはできません。
具体的には、通常の交信(コールサイン、QTH、名前、シグナルレポートの交換等)の後に「只今から、体験者が貴局を呼びます。交信をお願いします。」(連絡設定)「体験者との交信ありがとうございました。これで、交信を終わります。73さようなら。」(終話)となります。
交信の始まりと終わりには、通常の交信と同じくコールサインを入れます。ただし、体験者が交信を終わりその後すぐに次の局が呼んできても、そのままその局と続けて交信はできません。
アマチュア無線の体験運用ってどんなもの《体験運用実施者向け》
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アマチュア無線の楽しさをみんなで広げよう!!
-体験運用でアマチュア無線を知ってもらうには!?-
総務省も、次のページで体験運用のリーフレットなどを掲載しています。
▽アマチュア無線の交信体験制度(体験運用)
https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/ama_experience/
「体験運用の日」は(一社)日本アマチュア無線連盟(JARL)および(一財)日本アマチュア無線振興協会(JARD)に後援いただきます。また、「体験運用の日」はボーイスカウト日本連盟が主催するJOTA-JOTIの開催日でもあり、全国各地でスカウトの皆さまのアマチュア無線体験運用が展開されます。各地から体験運用実施局が数多くオンエアーする日となります。
①コールサインについて(フォネティックコード)
アマチュア無線家は、当たり前のようにコールサインとは何かを理解しています。しかし、一般の人は、コールサインと言う概念がありません。体験運用を行う前にアマチュア無線についてお話する際に、コールサインという世界で唯一の「呼出符号」を使っていることを教える必要があります。
▷参考資料:「コールサインとは?」
フォネティックコードを教えることが肝心ですが、すべてではなく運用局のコールサインのみで良いと思います。もちろん伝えなくても問題ありません。
▷参考資料:「フォネティックコード一覧表」
コールサインを理解しても交信の最初と最後にコールサインを告げることが難しい場合があります。特に小学生などは、英語に触れる機会が少ないのでコールサインを告げることは難しいと考えます。この場合、コントロールオペレータ(指揮者)が交信の最初と最後にコールサインを告げ、体験者はその都度コールサインを告げなくても「どうぞ」で良いでしょう。 法令上、体験者はコールサインを送出する必要はありませんが、コントロールオペレータ(指揮者)はコールサインを告げるようにしましょう。
②Q符号や略語について
Q符号や略語についても一般の人は、まったくわかりません。 極力使わない方法で交信をするのが良いでしょう。マニュアルを作成する場合は、Q符号や略語を使わないマニュアルの作成をお勧めします(※内容はご自由に変更してください)。
自分たちで変更して参考程度にお使いください。興味を持った方については、体験運用とは別枠で教えてあげるようにしましょう。
▷参考資料:「Q符号とは?」
③和文通話表について
事前にレクチャーできる場合は、運用場所・名前(ニックネーム)を和文通話表であらかじめ伝えるのが良いでしょう。
▷参考資料:「和文通話表一覧表」
④送受信の方法について
一般の人は、交互通話(シンプレックス運用)に慣れていません。そのため交互通話とは何かを教える必要があります。送信ボタン(PTT)を押して続けて話す。相手の話を聞くときは、送信ボタンを離すと言う動作を教える必要があります。また、「マイクを口の前に近づけて話す」ことを知らずに、マイクを耳に当てる方もいますので、身振り手振りで使い方を教えるのも効果的です。最近のハンディートランシーバーは、PTTボタンを押すのに力が必要でなかなか押せない子どももいます。そのような場合は、外付けのマイクを使うのが良いでしょう。
①個人で友人・親族等に対して体験運用を行う場合
このケースについては、友人ということで、すでにコミュニケーションが取られているのでアマチュア無線について、教えるのは簡単かもしれません。アマチュア無線について十分理解して頂き、また、交信の方法やコールサインとは何かも教えることができ、体験運用の前にいろいろレクチャーできるでしょう。
②クラブや子ども会・科学館・地域の児童文化センター等など体験者を募集して行う場合
この場合も、あらかじめ勉強会などを行い事前学習が行いやすいので容易に体験運用ができるでしょう。子ども会や科学館・地域の児童文化センター等とタイアップして体験運用をおこなうにはコラムを参考にしてください。
▹参考資料:「コラム」
③町や地域のイベント等でブースを出し公開運用で体験運用を行う場合
(アマチュア無線を多くの方にPRできるのがこのスタイルです)
このスタイルですが、特別局・記念局などを申請する場合、このスタイルと上記2のスタイルで体験運用を行ってくださいとなっています。これが一番大変なケースです。
イベント等に来ておられる方の目的はイベントでの体験運用を目的としていません。体験運用を行う人を誘うことに工夫が必要です。「アマチュア無線体験運用実施中」や「アマチュア無線の体験運用をやろー」などの 看板やのぼり旗を立ててPRするのが良いでしょう。
しかし、これだけでは、誰も来ません。興味がありそうな方に直接声をかけて誘う方法が一番です。なお、誘う際は相手の気持ちを考えて行い、信頼感を得られるよう配慮しましょう。声をかける場合、子どもに声をかけると同時に保護者の方に声をかけることをお勧めします。服装ですが、アマチュア無線のスタッフであるとわかる服装が良いと思います。専用のジャンパーやビブスを用意したり、バッジやシールを上着に貼って表示するなどするようにしましょう。
興味があって、体験運用を行う場合についても様々な問題があります。上記にも書きましたが、体験運用を行う方の目的は、体験ではありません。体験運用に時間をかけることはできないと考えた方が良いと思います。短時間に体験運用を行っていただきアマチュア無線の魅力を感じていただくことが必要です。
無線のレクチャーも短くし簡単な体験をしていただくことに配意しましょう。この場合、アマチュア無線の方の交信より体験者同士の交信が良いようです。親子・友人同士です。スタッフの無線機(ハンディー機)を使います。気心しれた人と交信するわけですから話も弾みます。(中には、まったく喋らない人もいます。何をしゃべればよいか思いつかない?)無線機を前にしゃべらない人もいますのでアドバイスが必要です。
しかし、無線で話すという初めての体験は、感動があるようでほとんどの人は良かったと言われます。興味が出てくれば、もっとやりたいと言われる方もいます。この場合は、7MHz帯などのHF帯の運用をお勧めして遠くの人と交信体験をしていただきます。体験者は、思いもよらない感動を味わうことができるようです。
▹参考資料:「コラム(実際の体験運用での出来事)JA3RLのこども無線教室」
ただ、7MHz等HFでの運用については、時間的制限が体験者にあります。上記で述べたように体験者は、アマチュア無線の体験運用を目的としていないので運用する場合すぐに交信相手が必要です。体験運用を経験したスタッフによりますと8Jや8Nのプリフィックスでの運用の場合、たとえ小規模な機材でも7MHz帯等ではパイルアップになりすぐに体験運用ができるのですが、通常のコールサインでは、相手を探すのに時間がかかる場合が多々あり体験運用できない場合があります。このような場合は、JARL局(JA*RL等)を使うとパイルアップになり、比較的体験運用がしやすくなります。JARL局等を使用するには、JARL事務局にご相談ください。
体験運用を行う場合、体験者の年齢などや性格などの違いで対応の方法が違います。小学生などは、英語に接する機会が少ないのでコールサイン等を告げることができない場合があるでしょう。また、コールサインという概念がないので通常の交信のようにいちいちコールサイン告げる必要はないと考えます。コールサインは、コントロールオペレータが体験運用の初めと終わりに告げるだけでよいでしょう(法令に触れることはありません)。
また、体験者の技量を見抜き臨機応変に対応する必要があります。体験者は、無線機からの音(相手の声)を聴くのに慣れていません。体験者が内容を聞き取れなかった場合は、コントロールオペレータが聞き取って教えてあげるのも必要です。コンディションが落ち、相手が聞こえなくなる場合は、「アマチュア無線は、携帯電話やインターネットのように必ずつながるものではなくお天気のように自然を相手に通信するもので必ず交信できるものではありません。」と不確実性が、アマチュア無線の醍醐味と教えてあげるのが良いかもしれません。
上記のようにコントロールオペレータを行う人については、各支部で講習会などを行い、体験者への対応について検討するのが良いと考えます。なお、コントロールオペレータは、体験運用を行う前に交信相手の了承をもらってください。また、体験交信が終わった後は、体験運用の終了を告げてください。
例:「私の横に体験者がおられますが、体験者と交信して頂いてよろしいでしょうか。」「これで、体験運用を終わります。**さん、ありがとうございました。」 ハンディートランシーバー等で体験者同士が交信する場合も、初めと終わりには、コントロールオペレータが自分のコールサイン告げ体験運用であると誰も聞いていないと思っても告知してください。
例:「こちらは、JA1QRZです。只今から体験運用を行います。」「こちらは、JA1QRZです。体験運用を終了します。」
コントロールオペレータが交信を行う前に、体験者の技量を告げることがあります(運用前に交信方法等のレクチャーをしているか、していないか等)。それに従って交信するのが良いと思います。
私たち無線家は必ずRSレポートを交換しますが、体験者はRSレポートと言う概念がありません。良く聞こえるか聞こえないかのみです。ですから体験者とのRSレポートの交換は必要ないと考えます(事前学習をしている場合は、RSレポートの交換は行っても良い)。RSレポートの交換は、コントロールオペレータと交換するだけで良いでしょう。
また、アマチュア無線の独特な言葉遣いは避けましょう。過去において、体験者にアマチュア無線の魅力を長々とお話しする方がおられました。良かれと思ってお話しされたと思いますが、通常の交信をお願いしたいと思います。アマチュア無線の魅力は、体験運用の主催者などがお話しします。
▷参考資料:交信証明書の例 / ハムエッグスNEXT(DL)
①コールサインや名前を伝える際に、フォネティックコードや和文通話表を使用して言えるようにするとよいでしょう。
②交信で出てきそうなワード「CQ」、「コールサイン」、「シグナルレポート」などを事前 に説明しておくとよいでしょう(スムーズな交信ができると思います。)。
③自己紹介を簡潔にまとめておきましょう。
例)「中学2年生です」「なぜ体験運用をしてみようと思ったのか」「やってみた感想」など。
④交信相手局に聞いてみたいことも事前にまとめておきましょう。
例)「アマチュア無線を始めて何年目ですか」「アマチュア無線の楽しみ方」など。
⑤アマチュア無線の免許の取り方を学習内容にとりいれておきましょう。
例)国家試験・JARD等の講習会のパンフの配布など。
▷参考資料:ハムエッグスNEXT
体験運用推進・ニューカマー支援委員会委員長 田中 透
E-mail:jr3qhq@jarl.com
体験運用を行いたいが、「どのようにして体験者を集めたらよいの?」と、よく聞かれることがあります。体験者を効率良く集めるには、子ども会や科学館・地域の児童文化センターとタイアップすると良いでしょう。「じゃあ、どのようにしてタイアップするの?」となりますが、これはひとえに地域の方たちとの日頃のお付き合いが必要です。また、相手の方の信用を得るため、一般社団法人日本アマチュア無線連盟の名前を使うと信用度が上がります。
たとえば、「一般社団法人日本アマチュア無線連盟**県支部登録クラブ**クラブ」などの名前を表に出すようにすることです。子ども会や科学館・地域の児童文化センターは、子どもたちを集めるノウハウを持っています。
たとえば、地域の児童文化センターに働きかけアマチュア無線の子ども向けイベントを行いたいので協力して頂きたいと要望を出します。協力が得られたら子ども集めをお願いし、センターの使用許可を頂きます。そして、イベントの運用は、アマチュア無線家が行うと言うことが良いでしょう。この場合は、児童文化センターで体験運用を行うので移動運用となるでしょう。
子ども会や科学館・地域の児童文化センターでの体験運用の場合、1回限りではなく月何回と数回おこない、子どもたちや保護者にアマチュア無線の免許を取るまでを1つの目標とし、開局後は、その子供たちや保護者に手伝っていただき持続可能な体験運用の教室ができるようにするとなお良いと思います。そして、開局した子ども同士が無線で話をして学校でアマチュア無線って面白いよとPRしてくれるとまた、新しい体験者が参加しアマチュア無線のコミュティーができ、発展していくでしょう。
私たちアマチュア無線家が、持続可能な体験運用ができれば、次にそこで免許を取り開局した子どもたちが体験運用を行ってくれ体験運用の輪が広がっていきます。このようになれば、私たちは、ニューカマーに無線のノウハウを交信という実践で伝授していくことに徹していけます。
●実際の体験運用での出来事(コラム)JA3RLのこども無線教室
JA3RLでは、以前(まだ体験臨時局や体験運用が許可になっていない頃)子ども向けのNPO法人とタイアップして「こども無線教室」と名付け毎月1回子どもたちに無線教室を行っていました。子どもたちは、NPO法人に集めていただき、私たちは無線教室の運営にあたりました。
ただ、どのようにすれば子どもたちが、アマチュア無線に興味を持つか手探りの状況で下記のようなイベントを行い数名のアマチュア無線家を誕生させました。
1. JARLのパンフレットハムエッグ等を使いアマチュア無線と言うのはどんな趣味かの勉強会。ただし、子どもですので難しいお話はせず楽しいお話をしました。
2. 子どもたちに無線交信を聞かせSWLレポートを書いてもらい送った。
3. ラジオ製作
4. 子どもたちにダイポールアンテナを作らせそのアンテナで受信し、アマチュア無線局にSWLレポートを送る。
5. 特定小電力無線機を使っての交信。
6. 特定小電力無線機を使ったフォックスハンティング。
JA3RL局が常駐している池田市民文化会館1階ロビーでJA3RLの公開運用に合わせて行いました。
●イベントでの体験運用(コラム)
地元のイベントでブースを出しクラブコールサインで体験運用を行いました。運用周波数は、7MHzとV/UHF帯でブースの前を通られるイベント参加者に「アマチュア無線の体験運用をしませんか」と声をかけ体験者を募るのですがほとんどの方は、素通りです。多くの方に声をかけてもまともに取り合ってもらえません。20人声をかけて1名または、一家族がせいぜいで大変労力が必要です。
また、交信にこぎつけても肝心の交信相手がいない、「時間がないのでまた」と去って行かれる方もおられます。私たちのスタイルは、呼び込みの担当者を決める。受付の担当者を決める。コントロールオペレータを決める。コントロールオペレータは、体験者がすぐに交信できるようにパイルアップをさばき続けます(通常のコールサインでは、パイルアップにはならいのでこの方法をとれない。記念局の場合はパイルアップになるのでこの方法がとれます)。体験者が来た時は、たまたまその時点で交信している局にお願いして体験運用を行うようにしました。突然体験運用をお願いするのですが、みなさんこころよく引き受けていただきました。
V/UHFについては、スタッフの中に体験運用の専属交信相手(さくら)を用意して交信を行う場合と、友人同士・家族などの複数の場合は、スタッフのトランシーバーで個人のコールサインで友人同士・親子で体験運用をしていただく方法をとりました。また、近くでの交信は、意味がないので徒歩で距離をあけ「いま、どこにいる?何が見える?」など話す内容を見つけ出す方法をとりました。
FMでは、体験者が聞き取れないことはないのですがSSBの場合は聞き取れないことが多くその場合、コントロールオペレータが、内容を教えてあげる場合がありました。交信マニュアルを用意しているのですが、それを読めない子どもなどがいる場合があり、その時は「ささやき女将」のようにコントロールオペレータがささやき、それを体験者がまねると言う方法もとりました。空いているスタッフが、体験運用中に保護者や次に体験運用を行う方にアマチュア無線の魅力や現在行っている交信相手の運用場所などについて話をして遠くへ電波が飛んでいくことを実感してもらうようにPRしました。中には、保護者が興味を持ち体験運用をすることもありました。体験運用終了後に連絡先などを書いた体験運用交信証明書とハムエッグ等パンフレットを渡しました。