■ 電波の異常伝搬による電波障害の詳細
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【スポラディックE層の発生による障害】
大気中のいろいろなガスは、太陽の紫外線やX線等により電離して自由電子を発生させます。この電子は、ある高さのところに集積して、性質の異なるいくつかの層を形成しています。この層のことを電離層といいます。
電離層は、地上60kmくらいから500kmくらいの高さの間にあり、下から順にD層、E層、F層(F1、F2層とに分かれているときもある)と呼ばれています。これらの電離層は、緯度・経度、昼夜、季節、太陽の活動状況により、密度、高さ、層の厚さがそれぞれ特徴的な変化をしています。
中波放送(AM放送)、短波放送、FM放送、テレビジョン放送(VHF)の電波は、この電離層によって反射されたり、吸収されたり、突き抜けたりします。その様子は、電離層の状態によって変化します。
地上約100km前後に形成されている電離層をE層といいます。ほぼ同じ高さのところにかなり高い周波数の電波(VHF帯)まで反射をする密度の高い、きわめて薄い層が突発的に形成されることがあります。これをスポラディックE層(Sporadic
E Lay、 Es、 Eスポ)と言います。日本付近では春から夏にかけて昼間に多く発生しますが、夜間にも発生することがあります。他の季節にも発生することもありますが、反射される周波数も低くなり、頻度も少なく、テレビへの障害はほとんどなくなります。
スポラディックE層が発生すると、いままで電離層を突き抜けてしまっていたFM放送やテレビの電波が1000〜2000km以上も遠くまで届くようになります。
このため受信している放送と同じ周波数の他の局からの(近隣の外国等)妨害を受けることになります。
障害はテレビジョン放送(VHF)のローチャンネル(1〜3ch)位までで、ハイチャンネル(4〜12ch)ではほとんど障害を受けることはありません。
視聴者の家からテレビの送信アンテナの延長方向(アンテナの指向方向)に混信の原因となる電波の発射源がある場合に、最も障害が受けやすくなり、逆の場合には受けにくくなります。テレビアンテナの指向特性にもよりますが、障害がひどいときには、広い範囲の地域で発生します。
一般に障害の受けやすい地域は限定されています。テレビのローチャンネルの受かるFMラジオで、障害の原因となっている放送の内容(日本のテレビジョン放送周波数帯のローチャンネルにFM放送を割り当てている国があります)を聞くことができる場合があります。
障害の症状は基本的には同一波の混信ですので、テレビ画面に縞(しま)模様が発生しますが、テレビ電波との周波数関係や強さにより症状が異なります。
また、同期が乱れたり、白黒になったり、障害が強いときには画面が見えなくなったり、外国語の放送が聞こえたりします。
【フェージングによる障害】
テレビ電波の伝搬経路は、見通し距離においては空間を伝わってくる直接波と大地(海面)で反射されてくる反射波とが合成されたものになり、それを受信することになります。 また、見通し距離以外では、回折波または大気による散乱波を受信していることになります。
したがって、回折の状況や反射地点での反射の状況が時間的に変化(海面や電波に対する大気の屈折率等の変化)すれば、フェージングが発生することになります。
一方、大気中の気温や水蒸気の量は、高さとともに規則的に変化しないで、部分的にはかなり不規則的な変化をしていることがあります。
したがって、電波に対する屈折率も場所または時間的に変化することになります。また、屈折率が大きくなると電波は地表に戻ってきて大地との反射を繰り返して遠くに届くようになります。
これをラジオダクトと言っていますが、大気中でも同様のダクトが発生することがあります。これらの不規則な要因によって電波が正常に届かなくなったり、多重伝搬路が形成され、それらが干渉しあってフェージングが発生したりします。
一般的に海上伝搬や見通し外の伝搬では短い周期、ラジオダクトによる場合には比較的長い周期のフェージングが発生します。地域によっては、ラジオダクトに外国の電波がのってくる場合もあります。ラジオダクトは、湿気の多い夏の夜または日の出ごろに多く発生します。
フェージングによる障害は、VHF帯、UHF帯はもちろんマイクロ波にも及びます。多重伝搬路が形成される障害の症状は、一般のフェージングの他に多重像になったり、同期が崩れたり、もやもやした像になることや、色が抜けることもあります。
送信アンテナから比較的近く、電波の強いところでは発生しませんが、関東地方の場合、東京タワーからの電波は数10km以遠になると発生しているようです。 |