VHFテレビに与える電波障害の原因と対策
(HF〜50MHz帯の運用と電波障害) |
HF〜50MHz帯での運用は、一般に取扱う空中線電力が大きくなることもあり、電波障害については他の周波数帯より深刻になります。
また、HF帯のアンテナは波長の関係から大きくなり、設置する方法などからも電波障害に対して不利となることもあります。
●HF〜50MHz帯の電波で発生する電波障害
HF〜50MHz帯の電波で発生する電波障害は、テレビ、ラジオ、電話機などあらゆる機器に及びます。これは、一般に取扱う空中線電力が比較的大きくなることもあり、電磁波の機器に対する影響が大きくなるためです。
また、障害が発生する範囲が大きくなることにも注意しなければなりません。 |
|
障害の解決には、無線局の対策だけにとどまらず、障害を受けている機器への対策が大きなウエイトを占めることになりますから、HF〜50MHz帯を運用する時には、近隣との関係を良くしておくことが大切になります。
●テレビやラジオへの障害の原因と対策
■障害の原因
テレビに対する電波障害は、大きく分けて無線機のスプリアスによるものと無線機から発射される基本波によるものとがあります。
最近のトランシーバーは性能が良いので、使い方を間違わない限り、スプリアスによる障害は少ないと思います。
障害の症状は、マイクに向かって話したり、電鍵のキーダウンにあわせて画面に縞(しま)模様が入ったり、SSBの「モガ、モガ」といった声がスピーカーから聞こえたりします。
基本波によって画面に縞が入る原因は、テレビのアンテナに無線局の電波が誘起して、テレビの入力回路に加わりテレビが混変調または相互変調を起こすからです。
また、テレビに音声が入る障害の原因は、テレビのアンプ回路に直接アマチュア局の電波が飛び込んだり、スピーカーコードやAC電源ラインに電波が誘起されて復調されるためです。
■障害の対策
@トランシーバー側での対策
テレビの特定チャンネルに障害が起きる場合は、スプリアスが原因とも考えられます。この場合は、送信機から高調波が輻射されないようにトランシーバーにローパスフィルターを挿入します。
また、ACラインに電波が回り込んで障害を起こすこともありますから、ACラインフィルターを挿入することもあります。
Aテレビ側での対策
トランシーバー側の対策でも障害が止まらない場合やテレビの全チャンネルに障害が起きる場合(基本波によって特定チャンネルに障害が起きる場合もある)は、基本波による障害と考えられますから、テレビ側にハイパスフィルターなどを挿入して対策をおこなうことになります。
近隣のお宅のテレビなどに対策を行う際は、当然のことですが、そのお宅の了承を得てからおこなわなければなりません。
ハイパスフィルターは、テレビアンテナの同軸ケーブルの外被導体に誘起した基本波が除去できるコモンモード対応のものが効果が期待できます。
また、ハイパスフィルターを挿入する場所も重要で、テレビの背面のアンテナ入力端子に挿入するのが効果があります。
テレビアンテナに受信ブースターを使用している場合は、右図のように受信ブースターのアンテナ入力部分に挿入しないと効果が期待できないことがあります。 |
|
|
ハイパスフィルターによる対策でも音声が混入する場合は、基本波によるACラインへの回り込みまたは音声回路への飛び込みが考えられます。
この場合は、ACラインフィルターをテレビのコンセントに挿入したり、スピーカーコードをフェライトコアで巻いたりといった対策が必要になります。
いずれにしても、対策をおこなうときは段階的に効果を見極めながら、ひとつひとつおこなうことが必要になります。 |
B無線局のアンテナ対策
無線局のアンテナはトランシーバー間のマッチングが十分に取れるように調整をします。
最近はアンテナチューナーを内蔵したトランシーバーがありますが、アンテナチューナーを過信することは、電波障害の面から見るとあまり良い方法ではありません。
また、テレビのアンテナとの距離が近いと、障害が発生する比率が高くなります。
物理的に難しい面もありますが、無線局のアンテナはできるだけ高くしたり、平面的にテレビのアンテナから離すことも必要になります。
●HF帯電波による電波障害の実例とその解決まで
■アマチュア局と障害を受けているお宅などの状況について
【アマチュア局の状況】
- 障害の発生する周波数帯および電力 7MHz帯500W
- 使用空中線 2エレメント八木 地上高20m
【障害を受けているお宅の状況】
1.アマチュア局との距離と受信システム
- アマチュア局の隣のお宅がアンテナタワーから約10mの距離にある。
- VHF帯を受けるのが地形的に困難なためUHF帯を受けている。また、共同住宅のためUHFアンテナに受信ブースターを付加したシステムとなっている。
2.障害を受けている機器と症状
- テレビ画面がアマチュア局の電信符号に合せて色が薄くなる。
- ビデオのチューナーを通して放送を見ると障害がひどくなる。また、録画時および2台のVHSビデオでダビングした時に画像のみだれと電信の符号音が混入する。8ミリビデオとVHSビデオとのダビング時も同様である。
- ビデオの再生時がもっとも障害がひどく、画面のみだれと電信の符号音が混入する。
■障害の確認と原因の調査
1.障害状況の確認
まず第一にアマチュア局と連絡を取りながら、障害の状況を確認しました。この時、障害の申告のあった7MHz帯のほか、アマチュア局が運用するほかの周波数帯の状況も念のために確認しました。
この結果、障害の発生は申告どおり7MHz帯のみであることが判明したので、7MHz帯を重点的に対策をおこないました。
2.障害ルートの確認
まず、テレビアンテナ系から確認をおこないました。
- 受信ブースターの入・出力端子にはアマチュア局が挿入したハイパスフィルターが挿入されていたので、これらを取り外した状態で障害の状況を再度確認しました。
- 先の調査の結果、障害の状況にあまり変化が見られないので、障害の発生原因はテレビアンテナ系からでないことが確認することができました。
- 挿入されていたハイパスフィルタ−は、取り外すことによりむしろ、テレビの画質が向上したので、D/U比を稼ぐ意味から外した状態にしておきました。
つぎに、ACラインからの混入の疑いがあるので、つぎのとおり対策をおこなってみました。
- トロイダルコアにACの延長コードを右図のように巻いて障害の状況を調べてみました。
- この結果、テレビ放送の受信時には、テレビのチューナー使用時およびビデオのチューナーを使用した時もほとんど障害が解消できました。
- 延長コードへの対策では1台のビデオに若干の障害が残ったため、トロイダルコアをビデオのACコード(ビデオ機器に近い側)に巻いて対策したところ障害が解消できました。
|
|
次に、ダビング時の障害を調査したところ、若干の障害が出るため、これを取り除くために次の対策をおこないました。
- トロイダルコアにビデオの入出力ケーブルを右図のように巻きました。
- これらの結果、ダビング時の障害についても解消することができました。
- これらの対策により、もっともひどかったビデオ再生時の障害も解消することができました。
|
|
■この事例と対策結果についてのまとめ
この結果、次のようなことが言え、貴重なデータを得ることができました。
- アマチュア局のアンテナが7MHz帯の2エレメント八木ということから、隣のお宅がほぼアンテナ直下になっていたこと。
- このような状況やアンテナエレメントが建物に近い場合は、ACラインに予想以上に電波が回り込んで電波障害の発生原因になること。
- ACラインにトロイダルコアで対策することにより、予想以上に障害排除の効果があること。
- 今回の対策は障害を受けている機器内部に手を入れずに解決できたことは幸運であったこと。
いずれにしても、電波障害の対策には、障害を受けている機器側に対策をおこなう場合がありますので、近隣のお宅の理解と協力が必要になります。このためにも、日頃から近隣との関係を良い方向で保つことが電波障害対策の重要課題となります。
【前のページに戻る】 |