テレビ受信ブースターが近接するアマチュア無線の430MHz帯の電波の影響を受けて、引き起こす受信障害があります。 UHF帯のテレビ放送を聴取している地域では、テレビアンテナからテレビセット間の配線による電波の減衰を補うために、アンテナ直下に受信ブースターを取り付けたり、卓上型の受信ブースターを設置するケースがほとんどです。 UHF帯のテレビ放送は、13chから62chまで割り当てられています。その周波数帯は470MHzから770MHzとなっています。UHFテレビ用の受信ブースターは、非常に広帯域な増幅特性を持っていますが、そのうえ高利得なために混変調を受けやすくなっています。受信ブースターの近くで430MHz帯の電波を発射するとテレビに障害が起きるケースが非常に多いのです。
■テレビ用受信ブースターの特性と電波障害の原因
■対策の方法
近隣の家庭からこのような障害の申し出があったら、しっかりと対策を施すために、相手のご家庭と協力して、障害の調査に努めましょう。 受信障害の原因を確認するには、ブースターに供給されている電源をいったん「OFF」にしたり、ブースターの利得調整を最小にするなどして障害の状況を調査します。 この方法により、障害が解消されたり、障害の程度が軽減されれば、原因が受信ブースターにあることが確認できます。
このような障害の対策は、受信ブースターが430MHz帯の電波を増幅しないようにすることです。具体的には、TVアンテナと受信ブースターの間に430MHz帯の電波を減衰させるトラップ・フィルターを挿入します。 このトラップフィルターは右図のようにコイルとコンデンサーまたは同軸ケーブルで自作するか、市販品(DXアンテナ製UT-430、コメットのTF-01など)を購入することになります。
▲DXアンテナのUT-430 ▼コメットのTF-01
▲トラップの自作の例。図は配線をわかりやすくするために、アレンジしたもので、個々の部品の大きさは実際に使用するものと異なります。
UHF受信ブースターに、上図(1)の自作フィルターを挿入した時の特性を左下のグラフに、UT-430を挿入したときの特性を右下のグラフに示します。
これらのトラップ・フィルターは、右図のように受信ブースターの入力端子(テレビアンテナからのケーブルが受信ブースタに接続される所)に挿入しなければ効果がありません。
また、受信ブースターがプラスチック製のケースの場合、内部の増幅回路に直接430MHz帯の電波が混入して障害が発生することがありますので、トラップ・フィルターを挿入しても十分な効果が現れないことがあります。
このような時は、簡単な調査方法としてフィルターを挿入した後、アルミホイール(台所用品として市販されているもの)でプラスチックケースを包んでみることによって、障害状況が軽減するかどうかによって判断することができますので、効果がある場合はさらにケースのシールド対策をおこなう必要があります。
配線するうえで注意が必要なのは、トラップフィルターとブースターとの間の同軸ケーブルの長さを70cm(430MHz帯の1波長)以下にすることです。 この配線の距離が長すぎると、フィルターの性能を十分に発揮できない場合があります。
■障害発生からJARLに連絡が来るまで
ここで紹介するケースでは、アマチュア局が430MHz帯で運用を始めたのは春頃からでしたが、運用を開始するにあたって近隣への電波障害の調査はおこなっていなかったようです。障害を受けているお宅から、JARLに連絡がきたのがその年の10月中旬です。障害を受けていたお宅では、原因が分からなかったこともあったようですが、約6カ月の間、障害を我慢していたことになります。
■障害の調査
アマチュア局に近隣のお宅の調査をおこなっていただきました。 この結果、UHF帯だけのテレビを観ているお宅が2軒あり、その2軒のお宅だけに障害が起きていることがわかりました。 2軒ともにテレビアンテナのところに受信ブースターが取りつけられており、これによる障害であることが予想できました。 この調査結果を受けて、JARLの監査指導委員会の電波障害相談員に障害を受けているお宅に出向いていただき、障害が発生する原因と対策方法を説明し、対策について協力をいただくようにお願いしました。
■対策の実施(その1)
アマチュア局に430MHz帯の電波を減衰させるトラップフィルター(UT-430:DXアンテナ製)を購入するようお願いし、入手しだい電波障害相談員の立ち会いで対策を実施することとしました。 対策の当日、障害を受けているお宅の了承を得て屋根の上に登り、UT-430を左図のように取り付けました。その後、アマチュア局に電波を出してもらい、障害の状況を確認したところ、ほぼ障害を取り除くことができましたので、障害を受けているお宅の了承を得て対策を終了しました。
■対策の実施(その2)
第1回目の対策では時間がなく、対策後に十分な調査がおこなえなかったこともあり、アマチュア局が八木アンテナ(4列スタック)のビーム方向を障害を受けていたお宅へ向けると、障害が発生していることが後日わかりました。 これは、八木アンテナの利得により、10Wで送信してもテレビアンテナには相当の大電力の電波が届いていることになり、受信ブースターが混変調を起こしていることが原因として考えられました。 このため、画質に影響のない範囲で受信ブースターのゲインを低減し、状況を確認したところ障害はなくなりました。さらに念のため、受信ブースターのケースがプラスチック製のため、受信ブースターの回路に直接430MHz帯の電波が混入するのを防止するため、ケースをアルミホイルで包み第2回目の対策を終了しました。以上の対策により障害は完全に取り除くことができました。
■障害を受けているお宅との人間関係
障害を受けている方が、最初にJARLに電話をかけてきたときは、アマチュア局に対してかなりの悪印象を持っていたように感じられました。 しかし、アマチュア局のすばやい対応と電波障害相談員の仲介および障害発生の原因、対策の方法の懇切丁寧な説明などにより、障害を受けている方とアマチュア局とは、結果的に非常に良い近隣関係を作ることができました。 電波障害の解決には、隣近所とのつき合いが一番大切と実感できた事例の一つです。