■宮城県塩竃市立第二中学校の生徒が国際国際宇宙ステーションの野口聡一宇宙飛行士と交信に成功
3月25日16:44、宮城県塩竃市立第二中学校の14名の生徒が、ARISSスクールコンタクトで国際宇宙ステーションに長期滞在中の野口聡一宇宙飛行士との交信に成功しました。このスクールコンタクトは国内で43例目、東北地方では4例目、宮城県内では2例目の実施となります。
同校のスクールコンタクトは、アマチュア無線家で同校の理科の先生である、平拓実先生(JO7UAR)の発案で取り組みが開始されたもので、地元のアマチュア無線クラブ「仙台DXチューニングクラブ(JH7YHS)」ほかの支援を得て実施されたものです。
なお、これまで国内43例のARISSスクールコンタクトの中で、中学校の「アマチュア無線の資格を持った先生」がキーマンとなって、自校の生徒の交信成功を目標に準備を進め、実施に至ったケースは、2009年7月11日に実施された岐阜県関市立武芸川中学校以来となります。
今回の成功に至るまでの詳細なレポートを、高平先生にお送りいただきましたのでご紹介いたします。
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2008年秋号のJARL NEWSでARISSスクールコンタクトの募集を知りました。当時、本校にはアマチュア無線技士の有資格の教職員が4名いて、塩竈市教育委員会の理解を得られたこと、そしてJH7YES 仙台DXチューニングクラブが支援を快く引き受けてくださったことから、今回の企画が実現しました。
そして本年3月下旬に実施できそうだと連絡を受けましたが、中学校は年度末の多忙な時期であり、返事をためらいました。
それでも特別な装置ではなく、アマチュア無線を用いて、宇宙に滞在する野口聡一宇宙飛行士と生徒が交信できるという魅力と教育的な効果を考え、申し込むことにしました。準備期間はほぼ2カ月で、その間に必要な機材を用意し、参加を希望する生徒と一緒に国際宇宙ステーションや無線通信に関する学習を続けました。
臨時に開設する社団局の開局申請の際にお世話になった東北総合通信局では、記載事項の留意点から実際の運用に関することまで、ていねいに教えていただきました。また、東北総合通信局の担当の方々は、スクールコンタクト当日には、妨害等を受けた場合に備えて、子供たちの活動のようすを見守ってくださいました。
発給していただいた8J7ISSのコールサインは、きっと子どもたちの記憶に残ることと思います。
前日までの準備でも当日の運用でも、最も苦労したのはアンテナでした。八木・宇田アンテナ発祥の地である宮城県に生まれた私ですが、勉強不足
と経験不足のため、全長4mを超えるクロス八木アンテナを正確に組み立て、ローテータに確実に取り付ける作業は難儀しました。
JA7BZU工藤OMとJA7EJO菅井OMのご指導のもと、設計通りにアンテナは完成したのですが、適切な径のブームが見当たらず、屋上にアンテナを設置する工事は交信する当日におこなうことになりました。3月25日は、春の彼岸を過ぎたというのに雪混じりの冷たい雨が降る中でのアンテナ工事となりました。工藤OMと菅井OM、JO7RLF熊谷OMとJO7ALK塩沼OMが寒い屋上で、全身が濡れても手を止めることなく、黙々と作業を続けてくださいました。その姿には、ただただ頭が下がる思いでした。
子供たちのためを思って、ボランティアで協力してくださったJH7YESの皆様方には、何度御礼の言葉を申し上げても足りません。
16時47分を過ぎ、屋上でローテータを操作していた私のところにも会場のざわめきが伝わってきました。地上の8J7ISSと北西の地平線から昇ってきたNA1SSが無線でつながった瞬間でした。遮蔽物のない宇宙から届くARISSの電波は強力で、1500km離れていることを感じさせない野口さんの声をハンディー機でも聞くことができました。
これまでに何度もスクールコンタクトのようすをワッチして、毎回感動していましたが、今回は格別でした。野口さんは、質問する本校の生徒一人一人の名前を呼び、分かりやすく答えていて、我が子のことのようにうれしく感じました。
交信の途中で地上の声が届かなくなるアクシデントもありましたが、コントロールオペレーターを務めるJA7EHT佐藤OMが落ち着いて対処され、生徒全員が時間内に質問することができました。
「ちょうど今、宮城県の上を通ってますね」という野口さんの言葉を聞いたとき、私は、360kmまで接近していたはずの、しかし、惜しいことに急速に離れていく国際宇宙ステーションの姿を想像していました。
交信終了後に、「遠いのに近くに感じた」と感想を述べていた生徒がいましたが、私も同じ気持ちでした。野口さんに直接お会いしたことはないのに、とても親しくなれた気がしました。
「宇宙に行った人でないと分からない答えを聞くことができて納得した」
「実際に交信していることが信じられなかったけれども、とても感動した」
といった感想が寄せられました。
私は理科教師として、実物に触れることや体感することを重視した授業をできる限りおこなっていますが、ARISSスクールコンタクトは、すばらしい教育プログラムです。
宇宙に滞在している宇宙飛行士に、自分の疑問に答えてもらえるという夢のような話ですが、本当に実現できることなのです。今回参加できた14名の生徒が、体験して感じたことや考えたことを、周りの生徒たちに伝えてくれることを期待しています。
交信を終えて、生徒がQSLカードを書き始めたときのことでした。協力をお願いしていたバーテックス・スタンダードの堀口さんから「交信を担当した中学生の皆さん、great job!でした!!!」という野口さんのツイッターが紹介され、教室は再び大きな拍手と歓声に包まれました。天空に浮かぶ駅との9分10秒間の交信は、心地よい興奮と感動の余韻を残し、こうして無事に終了しました。
スクールコンタクトの実施に向けて準備する中で、特に強く感じたことは、
人と人とのつながりでした。JM7SKE溝口OMから仙台DXチューニングクラブを
紹介されて、アマチュアコードに書いてある通りに協力的で素敵な人たちと
出会い、さまざまな偶然が重なって、夢を実現することができました。
JA7FEX和泉OMを始めとして、ここに書いていない多くの方々の協力があって、
この企画は成功しました。アマチュア無線のすばらしさも、NASAやJAXAのすば
らしさも、再確認することができました。
今後は、恩返しも兼ねて、国際協力で進められている国際宇宙ステーション
の活動のように、エリアを越えてでもスクールコンタクトを支援したいと考え
ています。まずは47都道府県のすべてで実施されるように、その次は全市全郡?
と夢は広がります。
一人でも多くの青少年に届け!天からの声!
(レポート:塩竈市立第二中学校・平拓実先生(JO7UAR))
(4月5日)
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