【南極昭和基地第51次越冬隊8J1RLからのメッセージ】
■工藤 栄第51次越冬隊長からのメッセージ
南極昭和基地、第51次越冬隊長の工藤 栄です。このたびの国際宇宙ステーションと南極昭和基地との交信が成功裏に実施できたことをうれしく思います。
アマチュア無線の資格を取ってから数十年。当時は友人との簡単なコミュニケーションツールとしての運用だけで、宇宙との交信ができるとは考えてもいませんでした。
今回の交信は時間的な制限はあったものの、野口さんのクリアな声と遅延のない会話を楽しむことができ、あらためてアマチュア無線の楽しさを味わうことができました。
宇宙ステーションと南極の基地での活動はそれぞれ文明社会から孤立し、活動するうえでもさまざまな制約があるため、身体への影響や食事環境の向上などをテーマに共同で研究しています。今回、南極と国際宇宙ステーションにそれぞれが出発する直前に、相互に関わりを持っていたのですが、このたびの交信でより身近に感じるようになりました。余暇の過ごし方の一つとしてアマチュア無線があり、限られた人数しかいない宇宙ステーションや南極の基地から全世界の人々とのコミュニケーション・会話を楽しむ窓として有効に活用できていると思います。
来年2月までの越冬期間中、この南極という場所と優秀な各隊員の能力とチームワークを生かし、アマチュア無線のさらなる可能性に挑戦してみたいと思っています。
第51次日本南極地域観測隊 越冬隊長 工藤 栄
■大谷祐介隊員からのメッセージ
第51次越冬隊通信担当で8J1RLの運用責任者の大谷です。NA1SSと8J1RLの交信について当日の記録をもとにレポートします。
●4月25日
最初に設定されたスケジュール。昭和基地からの最大仰角1.5度。昭和基地の天候はブリザード。最大瞬間風速41.5m/sを記録した猛吹雪のため屋外への外出は制限されており、もちろんアンテナの設置はできません。
予定の時間になり、無線機には既設のモービル用コリニアを接続しスタンバイしました。スケルチをはずしたノイズの中に何か信号があるのがわかり、こちらからも何度か呼びましたが交信には至りませんでした。
あとでわかったことですが、野口さんにはこちらの呼びかけが微弱ながら理解できていたとのことです。
●4月29日
計算上の最大仰角1.9度、昭和基地の天候は曇りで気温は、−12℃でしたが風がない絶好のコンディションです。基地の倉庫で眠っていた10エレ八木を組み立て、北向きに開けた地上高5mに設置。偏波面は垂直で真方位の0度に向けました。
基地の中のシャックはアンテナの設置場所からは遠いため、屋外の作業小屋に移動して運用。室温はヒーターをつけても−6℃です。
AOSになり8J1RLからNA1SSを呼びました。3度目の呼びかけに野口さんの元気な応答が返ってきました。とても直線距離2,000km離れた宇宙からの信号とは思えないほどクリアな音声でした。
レポート交換のあと国際宇宙ステーションの生活や昭和基地での天候や気温について話をし、アマチュアらしくアンテナや伝搬特性の話をしたところでLOSとなり終了しました。
途中、偏波面の変化によると思われるフェージングがありましたが、終始良好な通信をおこなうことができました。
なお、この模様を撮影していたビデオを後から見ると、うわずった声で喜びながら交信している自分が映っており見ていられません。
●4月30日
当初予備日としていたこの日も野口さんの計らいで交信できました。計算上の最大仰角2.0度と昨日よりも良く、ウィンドウも30秒ほど長く、昭和基地の天候も前日と同様で問題ありません。
昨日までの経験から4アマでも運用できる20W機に変更し、他の隊員も交信できるようにしてスタンバイ。
AOSになると野口さんからの呼びかけが聞こえ、こちらの音声も届き本日も良好な交信ができました。
工藤越冬隊長から天候や国際宇宙ステーションからの景色についての話、大気観測の増永隊員から南極上層の空や夜行雲の話をし4分間にわたる交信はLOSとともに終了しました。
今回はグランドプレーンを設置して無指向性アンテナでの受信にも挑戦し、TCAを中心とした約2分の間、NA1SSの音声を明瞭に受信することができました。電波を出せば普通に交信できたと思われます。
今回の交信は国際宇宙ステーションが交信した最も南の局との交信という記録になりました。これまでの記録はピーター1世島(南緯68度50分 西経90度35分)の「3Y0X」でしたが、これを南緯にして10分ほど上回ったようです。この新しい記録が日本人宇宙飛行士と日本の南極基地との間で成立したことをたいへん嬉しく思います。
昭和基地からは今後もアマチュア無線に与えられた可能性を生かすべくさまざまな周波数やモードでの運用はもちろんのこと、新しいデジタル技術を使った月面反射通信などにもチャレンジしてみたいと考えています。
最後に今回の交信機会を作ってくださったKD5TVP・野口宇宙飛行士、さまざまなサポートをくださった7M3TJZ・安田OM、N5VHO・Kenneth、JARL、JAXA、そして第51次越冬隊のメンバーに謝意を表します。
第51次日本南極地域観測隊
通信担当 大谷祐介(JE5XYT)
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