■長野県小諸市立小諸東中学校の生徒が国際宇宙ステーションの野口聡一宇宙飛行士と交信に成功
5月14日20:26、長野県小諸市立小諸東中学校の生徒が、ARISSスクールコンタクトで国際宇宙ステーションの野口聡一宇宙飛行士との交信に成功しました。国内45例目ですが、信越地方では2007年3月24日に長野県上伊那郡辰野町の「たつの宇宙少年団」以来の実施で2例目となります。
同校のスクールコンタクトは、3月25日に実施の宮城県塩竃市立第二中学校(国内43例目)と同様、自校の先生(小柳昭喜先生JH0TIS)がキーマンとなって、
自校の生徒の交信成功を目標に準備を進め実施に至ったものです。
野口聡一宇宙飛行士は6月2日にソユーズ宇宙船で無事帰還したことから、
野口聡一宇宙飛行士による最後のスクールコンタクトの交信となりました。
小柳昭喜先生に、たいへん貴重なレポートをいただきましたのでご紹介いたします。
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「14 May at 11:16 UTC - Komoro Higashi Junior High School, Komoro, Nagano, Japan.」
これがARISSのサイトに最初に掲載された、8N0KH小諸東中学校の交信予定時刻でした。
ところが、JAXAやJAMSATのサイトでISSの軌道情報を調べると、11:26 UTCになると思われました。10分の違いですが、ISSと交信ができるのは頭上を通過するたった9分49秒間しかありませんから大きな違いです。悩みましたが、「最新軌道情報の11:26 UTCが正しいだろう」という想定で、開会式や交信の日程表を作って、関係者に連絡を取り、ばたばたと慌ただしく準備を進めました。
交信の前々日に、ローテータをコントロールするCalsat32(JR1HUO氏作)の衛星データをパソコン上から誤って消してしまうというトラブルがありましたが、再度データを入れて、ネット上のGoogleSat(ISSが現在位置から地球上を見た地図が表示されるサイト)を見て、Calsat32上のISSの位置が合っていることを確かめました。
●交信当日…さまざまな偶然が重なって
交信当日には、最近学校に導入された50インチのテレビにネットにつながっているパソコンをつないで、このGoogleSatの画面を映し出すことにしました。交信前日には、ARISSコーディネーターの7M3TJZ安田さんから、11:26 UTCという連絡をいただきました。
すでに3月には塩竃市立第二中学校の交信に合わせて、ローテータとアンテナの動作確認と質問をする生徒たちの交信のリハーサルも済んでいたので、余裕で交信当日を迎えるはずでした。
ところが、交信当日に使用する予定の教室での別の会議が、予定よりも延びて、会場準備が忙しくなりました。また、開会式でこれまでの活動紹介で使うパワーポイントの手直し作業がギリギリまでかかってしまいました。
さらに悪いことは重なるもので、3月には正常に動いていたアンテナ動作を念のために再度確認すると、ローテーターコントローラーの示す方位と、実際のアンテナの方位がずれていることに気づきました。もう外は暗くなっていて、その中を屋上に登って、アンテナの方角を修正するかどうか迷いましたが、ローテータを貸してくださったJA0CQP小松さん(3年前辰野町でのARISSスクールコンタクトの実施者)に電話で相談し、コントローラーのボリューム調整で事なきを得たのが、開会式が始まる15分前でした。
一難去ってまた一難。校長先生のお話や生徒代表の話など無事に進み、いよいよ本番交信開始前の休憩時刻の間に、無線機から他の通常の地上交信の音声を会場に出して、報道陣に録音の音量を確認しておいてもらおうと、VFOを回していた時のことでした。
「もうISSが日本の上空にいる」と観衆の一人が、GoogleSatの画面を指さして言うのです。「まさか」生徒たちや保護者や報道陣で一杯の部屋がどよめく中、「今朝も最新データを確認しているので大丈夫です」と言う私の心の中にも、「ひょっとして」という不安が湧いてきました。
「それでは、一応呼んでみます」「NA1SSこちらは8N0KHどうぞ」もちろん応答なし。
予定時刻になっていないから当然なのですが、GoogleSatの画面上では、ISSは日本上空から段々と南東の太平洋上に離れていっています。無言の観衆からの視線が私に突き刺さってきます。
「NA1SSこちらは8N0KHどうぞ」5分間以上呼びました。応答なし。
いずれにしても、本来の交信開始予定時刻も近づいてきているので、引き続き呼びます。
「8N0KHこちらは8N0……あれっ。NA1SSこちらは8N0KHどうぞ」
私は観衆の方を向くことができず、視線を下に落として、無線機の表示をじっと見るしかありませんでした。
私の人生の中で最も動揺した時間帯が、およそ8分を過ぎた頃でした。突然、「あっ」と気づきました。慌てて無線機の操作をして呼ぶと、野口さんの声がスピーカーから聞こえてきました。やっとのことで交信開始です。
安堵したのはほんの一瞬だけで、すぐに残り時間が短い中で、できるだけ多くの生徒たちに質問をさせる方法を考えなければなりません。交信終了予定時刻までの残り時間を示すタイマーを見ると、何と残り5分を切っていました。本来ならば、9分49秒あったはずなのに。絶望的と言うしかない時間です。私は、「ぼーっ」としたまま何も考えることができず、淡々と次の生徒にマイクを手渡していただけでした。
しばらくしてようやく気を取り直して「手短に質問すれば良い」という単純なことを思い出して、生徒に質問を短く言うよう伝えました。生徒は私の急な指示に戸惑いながらも何とか工夫して質問していました。
●交信を終えて…
後から交信のようすを録画したビデオで見て、とても感動したことがありました。それは、野口宇宙飛行士が、残り時間が短いことに気づいていながらも、一人一人の生徒の名前を呼びながら、丁寧にかつ的確に質問に答えてくれていたことです。おそらく事前に考えていた9分49秒間の交信の間で答えるつもりだった内容よりも、簡潔にしてくれていたのでしょうが、それを感じさせない十分な内容であり、しかも早口でもない自然な答え方でした。さすがに大勢の中から選抜された超優秀な宇宙飛行士である野口さんの能力の高さと人間的な優しい配慮に感心されられて感動しました。交信残り時間を示すタイマーが、「0秒」を示した後にも、交信が続いたのは不思議なそしてラッキーなことでした。
残念ながら15人目の質問への答えがギリギリ最後の受信となり、5人の生徒が残ってしまいました。これまで国内からは、約15人の生徒が質問するのが通例でしたが、できるだけ多くの生徒にこの体験をしてほしいとの思いから、途中で交信が途絶える可能性を承知した5人の生徒が質問者に加わっていたのですが、やはりこの残り時間ではどうしようもありませんでした。
しかし、そのときその場では分からずに、後日、太平洋側で野口さんの信号を受信して録音してくれたものを私に送ってくれた友人のおかげでわかったのですが、野口宇宙飛行士は、15人目の質問に答えた後、交信が途絶えるちょうど直前に、残り5名の生徒の名前を続けて「○○さん、○○君、○○君、……」と、言ってくれていたのです。この絶妙なタイミングと心遣いに、生徒たち共々、交信がつながった瞬間と同じくらいの感動を後で味わうことができるとは、思いがけない喜びでした。
このようにして、9分49秒間のはずだった私たちの交信は、約5分に短くなってしまいましたが、とにかく交信ができたことは良かったと思います。
●援助、協力をいただいた方々に感謝
ここまでは大勢の方との出会いがあり、大変お世話になりました。ARISSコーディネーターの安田さんの援助がなければ、当然交信までこぎつけられませんでしたし、ローテータとコントローラーとパソコンとのインターフェースを貸してくださったり、3年前の辰野町での実施の際には見学させてくださったり、資料等も揃えてご助言くださった小松さん、クロス八木アンテナを提供してくださったり生徒のラジオ製作教室の手伝いもしてくださったJARL上田クラブの皆様、JAXA宇宙教育センター、科学技術振興機構、佐久市子ども未来館、国立天文台野辺山、信越総合通信局、TSS、NHKドラマ『ふたつのスピカ』の橘プロデューサー、生徒と保護者の理解、校長、同僚の協力、小諸市教育委員会、ヤマダ産業、そして1年前に同じように岐阜県の武芸川中学校で実施した舩戸先生が資料や精神面で大きく支えてくださいました。
交信当日には、部屋の大きさの都合上などで、多くの方をお招きすることができず、大変失礼を致しました。この場をお借りして、お詫びとお礼を申し上げます。すみませんでした。
そして、ありがとうございました。小諸市の近くの川上村出身で宇宙飛行士候補者に選ばれた油井亀美也さんからも応援メッセージをいただくことができました。
数年後に、油井さんが宇宙に行った時には、万全な交信ができるように、今回の経験から何らかのお手伝いができればと思っています。
(レポート:JH0TIS小柳昭喜先生)
(6月2日)
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