■大阪府立松原高等学校で22名の小・中学生が国際宇宙ステーションと交信に成功
【バレンタインの夜に素敵なプレゼントが届く】
2011年2月14日21:00、大阪府立松原高等学校で松原市の小・中学生22名が、国際宇宙ステーションに長期滞在中のキャサリン・コールマン宇宙飛行士(KC5ZTH)との交信に成功しました。今回のスクールコンタクトは国内で50例目となります。
松原高等学校のスクールコンタクトは、同校の高校生たちによって企画準備が進められ、地元の小・中学生の交信のサポートをする形で実施されたもので、このスタイルによるスクールコンタクトの実施は、2004年7月13日の福岡県立明善高等学校以来となります。
当時の明善高校のスクールコンタクト(写真右)は、ARISSスクールコンタクトを高等学校の教育プログラムとして生かせないものかと考えたアマチュア無線家の先生(JR6NVG・山下智志先生)の呼びかけに多くの高校生たちが賛同し、プロジェクトチームを組んで準備・運営がおこなわれ、見事に成功をおさめたものでした。
一方、今回の松原高等学校のケースでは、アマチュア無線家である高校生たちが、自らスクールコンタクトへの取り組みを企画発案し、プロジェクトチームを組んで準備を進め、成功に至ったものという点で若干の違いがありますが、高校生たちの貴重な取り組みを、裏側から支えた校外のベテランアマチュア無線家のアドバイスをはじめ、強力な支援者の存在・協力が、大成功の大きな要素の一つと言えるでしょう。
準備から、成功までの詳細なレポートを関西ARISSプロジェクトチームの屋田純喜さん(JL3JRY)からいただくことができましたのでご紹介いたします。
●大きな壁の克服(企画から準備まで)
今回のプロジェクトリーダーはJO3LJO・岡本康平君(高校3年生)。関西アマチュア無線フェスティバル(KANHAM)のスタッフの一人として協力してきた彼は、同じくKANHAMメンバーで構成される関西ARISSプロジェクトチームのARISSスクールコンタクトに参加し大きな感動を覚え「自分の通っている高校でも開催したい」とメンバーに告白しました。
メンバーから出された開催に向けた岡本君への課題は大きく2つ。
- ARISSを理解してもらえ一緒に協力してくれる学校の先生を探すこと
- 一緒に活動してくれる同級生をできるだけ多く集めること
でした。文字通りゼロからの取り組みになることを彼は高校1年生の時に決心し、次の日から高校内でスクールコンタクトの魅力を伝えることに奔走したのです。
岡本君のスクールコンタクトへの熱い思いは少しずつ仲間に伝わり、わずか1年足らずで、メンバーから出された課題を大きくクリアーする仲間の賛同を集めました。
さっそく、集まった高校生たちで交信希望の小・中学生をどうやって集めるかというところから話し合われましたが、中高一貫校でない公立高校の彼らには、第一歩から「子供たちの募集」という大きな壁が立ちふさがりました。
そんな始めの一歩が進まない状況に、今回のARISSへの岡本君の一番の理解者となった同校の山田教諭が問題の解決に向け関係機関へ働きかけてくださり、2010年6月に39名もの子供たちを集めることができ、同校のARISSプロジェクトがスタートしたのです。
●実現に向けて高校生たちの取り組み
今回のスクールコンタクト開催に向けた事前授業は全て高校生たちが企画し、毎回の事前学習会は「参加する子供たちと高校生が、環境や科学そして友達の大切さを共に学ぶ」というテーマで進められました。事前学習も順調に進み、開催の予定が少し見え始めた時、どうしても超えなければならない試練の日がやって来ました。それはコンタクトできる子供たちの選出です。
ISSが上空を通過する時間(交信可能時間)は10分ほどしかなく、コンタクトできる子供たちをどうしても20名程度に選出しなければならいのです。
抽選日当日、会場には「抽選に当たって喜ぶ子供たち」、そして「抽選にはずれて落ち込む子供たち」の姿がありました。「一人でも多く交信に参加してほしい気持ち」との狭間に揺れる高校生には、とても辛い経験となったのです。
「抽選にもれた子供たちは次回からもう参加しないのではないか……」高校生たちがそんな心配をする中、自然と子供たちの保護者が立ち上がりました。
「抽選結果は残念!でも今度は応援隊としてARISSに取り組もうじゃない」とこれまでの取り組みに共感してくれていた保護者の存在にこのコンタクトは本物になると確信した時でもありました。
さまざまな困難を乗り越え取り組んできた松原高等学校のARISSプロジェクトチームに、2011年1月下旬、スクールコンタクト開催の正式決定の連絡がARISS委員会から届きました。臨時局(8N3L)の申請、通信機材の準備と、急ピッチで準備が進められました。
●宇宙から届いたバレンタインメッセージ
2月14日本番当日、大阪平野には珍しい雪が降り積もり来場者が少ないのではと心配していましたが、来賓を含め200名もの来場者で会場は一杯になりました。
会場内ではプロジェクターや照明・音声などのラインが会場に張り巡らせられ、また無線機のドップラーシフトなどへの対応方法についてコントロールオペレーターとなった岡本君へ何度も交信のシミュレーションがおこなわれました。
近畿総合通信局や松原市長からの来賓挨拶など式典がおこなわれた後、いよいよコンタクトの予定時間。静まる会場の中、カントダウンがはじまりました。
「NA1SS this is 8N3L How do you copy? over.」
かたずを飲んで見守る会場は、ISSからの返事を期待しますが、ホワイトノイズだけが流れます。
何度コールしてもISSからの返事がない状況に、会場からも心配の声のざわめきが出始めます。不安が頂点に達した5分過ぎ、突然会場にキャサリンさんからの透き通ったシグナルが響き渡りました。
「ワッ!」と一瞬の歓声のあと、静かに子供たちが考えた宇宙飛行士への質問がはじまりました。子供たちの質問は混信などトラブルもなく順調におこなわれ、無事に最後の子供たちの質問が終えた後、キャサリンさんのシグナルが静かにノイズの中へと消えていきました。
無事コンタクトの終了が告げられると、割れんばかりの拍手が沸き起こり2分ほど拍手が鳴り止みません。抱き合って喜び合う高校生たち、そして涙ぐむ子供たちと保護者たちの姿。わずか10分足らずのコンタクトに会場が一体となった瞬間でした。すぐに英語教諭の先生による質問の和訳が伝えられ、一人一人の和訳回答がおこなわれました。会場に式典終了後、待ち構えられたメディアの取材攻勢を受け、一夜にして有名人となり、子供たちにとっても一生に残る思い出となったことでしょう。
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さて感動の中、無事に成功した同校のスクールコンタクトですが、感動のドラマの裏側では、実は「ドップラーシフトをメインオペーレーターに指示する担当」、「ISSの軌道を正確に追尾する担当」、「送信をモニターする担当」、そして「雪の降る極寒の中、屋上に待機し万一のアンテナ不良に備えて待機したベテランアマチュア家たち(写真右)」の姿があります。華やかな会場には出ていませんが、いぶし銀の力として子供たちのARISSコンタクトの成功を支えていたのです。
そんな裏舞台として活躍するアマチュア無線家スタッフの原動力はアマチュア無線で成し遂げる夢の実現、そして子供たちのいきいきと光る感動の瞳だったのです。
(TNX JL3LRY屋田純喜さん)
(2月21日)
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