■京都市立洛陽工業高等学校で実施のARISSスクールコンタクトレポート
2013年12月12日、京都市立洛陽工業高等学校で実施されたARISSスクールコンタクトについて、実施責任者を務めたJM3DUR島村隆久さんから、詳細なレポートをいただきましたのでご紹介します。
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●ARISSスクールコンタクト in 京都府立洛陽工業高等学校
2013年12月12日午後5時39分、京都市立洛陽工業高等学校で、同校に隣接している京都市立唐橋小学校
の5、6年生21人が国際宇宙ステーションの若田宇宙飛行士との交信に成功しました。
コントロールオペレーターの高橋さんは、洛陽工業高等学校で教員をされている方です。
会場には、唐橋小学校4年生の見学希望者の他、質問する小学生の保護者や先生と連絡の取れた同校OBのアマチュア無線愛好家と関西ARISSプロジェクトチームや他プロジェクト関係者を含め約160人が集まりました。
このスクールコンタクトは国内では69例目、関西地方では21回目になり、また京都府内では2008年3月26日のNPO法人「子どもサポートプロジェクト」が実施のスクールコンタクトに続き2例目です。
今回のスクールコンタクトの企画に当たって「若い人にも科学技術に触れてもらう機会がもっとあればいいな」と思っていた中、2012年6月に母校である洛陽工業高等学校で「京から宇宙高校生」という新聞記事が目に付き、ぜひARISSスクールコンタクトの提案をしようと考えました。
正直「たぶんダメだろうな」と思っていましたが、なんと「やりましょう」という方向で話が進んでいきました。
JARL京都クラブメンバーや洛陽工業高等学校のOBに、メールやフェイスブックを使って呼びかけて、スクールコンタクトに関心のある人に手伝ってもらうことにしました。
また実施に対しての提案は、関西ARISSプロジェクトチームに協力をお願いして、学校への提案もスムーズにいきました。相談していただいた結果、同校近隣の唐橋小学校との間でさまざまな教育活動で連携を図っておられる中で、ARISSスクールコンタクトを体験してもらう方向で検討いただくことになりました。
その後、ARISSスクールコンタクトの申請書作成に取りかかりました。しかし、団体の名前や教育計画などが決まらず、数か月は手つかずの状態が続きました。
2013年6月下旬にARISS運用委員の安田さん(7M3TJZ)から2013年12月から2014年5月の間に、京都を予定したいとの情報を受け学校の担当先生に、小学校と相談のうえ申請書を早く仕上げてもらうように迫りました。いろいろなことがありましたが、関係者のおかげで7月25日に申請書を送付できました。
その後2013年9月25日に、安田運用委員から「12月9日〜13日の週に若田さんとの交信はできませんか?」とのメールを受けたので、「やった!キタ〜!」と思い、急いで学校の担当先生に相談したところ、その日程は、期末試験期間中とのことでしたが、実施へと進んでいくことになりました。
3アマ以上の無線従事者の高校生か教職員の方が学校におられないか探していただいたところ、高校生の中に候補者がおらず残念な結果になりましたが検討をいただいた結果、同校の教員で京都ものづくりコースの高橋先生(JG3GNU)にコントロールオペレーターをお願いすることになりました。
準備できるアンテナ、タワー等の設備がスクールコンタクトの延期により足りなくなりましたが、関西ARISSプロジェクトの関係者のご協力で、何とか機材が10月中に準備できるようになりました。
11月16日(土)にアンテナの設営をおこない、関西各地や洛陽工業高等学校OBを含めて14人ほど集まっていただきました。
手分けしてタワーやアンテナなどの機材を屋上へ運び、屋上で組立を始めました。2時間弱でほぼ、タワーにアンテナを立てて、SWRのチェックとローテーターのチェックが完了し、教室へ同軸の引き込みが終わりました。
そして会場の教室を見学し、常設の音響設備状況からハウリングの可能性の指摘があり、関西ARISSプロジェクトチーム関係者のシステムを持ち込むということになりました。そのあと、開催日に向けてやるべきことを学校へ説明しました。
12月2日の交信リハーサル(練習会)は、当日参加の21名の小学生を集めて会場の教室で本番を模擬する形でおこないました。
2〜3回の練習ですぐに慣れた感じになりました。模擬宇宙飛行士(JL3JRY屋田さん)を交えた練習でも6分10秒ぐらいで21問受け答えできていたので、後は「自分の質問をしっかり覚えること」「大きな声で言うことなど」「名前は下の名前だけで」と指導しました。
本番は、安田運用委員から12月12日と決まったと連絡がありました。すぐに、学校への連絡と、関西ARISSプロジェクトの主要メンバーと連絡を取りました。
近畿総合通信局陸上第三課の担当者より、不法局対策のため電波監視車両を現地で派遣する予定であることを伺いました。
そして、ARISSスクールコンタクトの当日を迎えました。午前中に安田運用委員から、ISSの軌道が上がったので軌道計算ソフトのデータを最新にするよう連絡がありました。すぐに担当者へ連絡して、軌道計算ソフトCALSAT32のデータを修正してもらうことになりました。
13時に学校に入り、会場設営が学校関係者で進められていましたので、私たちスタッフも集まり、機材を会場まで高校生の応援をいただきながら担いで上がります。音響設備の持込みと無線機、パソコンなど、セッティングが進められました。
14時ごろに学校側と最終打ち合わせをするのに関西ARISSプロジェクト代表者の到着を待ち、14時過ぎに学校側(担当の先生、教頭先生、高橋先生、ほか生徒たち)と無線スタッフの顔合わせと打ち合わせをおこないました。プロジェクターは2セット準備され、衛星が近づいてくる地図と宇宙飛行士の写真を映しました。装飾に使用する宇宙飛行士やシャトルの風船が天井から吊るされて宇宙イベントらしくなってきました。
高橋先生からも「ISSでトラブルがあったらしいというニュースを聞きましたが、大丈夫でしょうか?」と言われて少し気になっていましたが、刻々と時間は過ぎていきます。
そうこうしているうちにオペレーターへの指導、無線機の操作(ドップラー周波数調整)などの指導が始まりました。高校生は、放送部の3人が取材、ハイパーステージの3人の生徒が来ていましたので、彼らにできることとして、タイムキーパーと児童への指導を手伝ってもらうことになりました。
時間が過ぎていく中、近畿総合通信局の電波監視担当の方が学校の状況を拝見したいとのことで、アンテナの設置状況や会場となる教室に来ていただき、電波監視の状況について説明を受けました。状況的に問題はないと思いますが、引き続き監視活動をおこなっていただけるとの回答をいただきました。
さらにその頃、見慣れない電話番号から着信があったので、リダイヤルすると安田運用委員からの電話でした。その時の話によると「ISSのトラブルで中止か延期の連絡の電話があるかもしれないので、緊急の電話に注意するように」ということでした。
私は携帯を握りしめて廊下に出ました。その情報は近くを通りかかった数人の関係者に伝えておきましたが、「現場では児童に不安を与えてはいけない」「報道関係者へも伝えない」ということで、交信が終わるまでこの情報は伏せられました。
学校によるプレゼンなどの講演のあと、JL3JRY屋田さんの進行で、今回の責任者である私と京都府のアマチュア無線家を代表して、JA3UWB岩本JARL京都府支部長にあいさつをいただきました。
私は携帯を握りしめながらも残り20分前になりました。特に連絡はありません。事前の予行練習も模擬宇宙飛行士のユーモアな応答で会場を沸かせていました。
屋田さんアドバイスで「仮に延期となった場合でも、高橋先生にISSを呼び続けてもらう」ということになりました。
高校生が協力してのカウントダウンのあと、運命の17時37分に〜1分以上呼び続けても応答がありません、徐々にですが弱い信号が聞こえてきました。完全に聞こえるまで呼び続けて2分後に若田宇宙飛行士と繋がり、今まで以上に落ち着き、満面の笑顔を浮かべて子供たちの質問が始まりました(右の写真は、交信中の若田宇宙飛行士。Photo by NASA)。少しも途切れることなく21名による21問、予定していたすべての質問が終わり、オペレーターからの質問にも対応していただき交信は成功!
場内は感激のあと、大きな拍手!担当した私たちも泣きそうでした。
屋田さんから子どもたちに感想を聞き、子供たちも感動しているようでした。
コンタクト成功後、洛陽工業高校の校長先生、教頭先生、唐橋小学校の校長先生などと固い握手をしてくださいました。やって本当に良かったと思った瞬間でした。
なお当日のテレビ取材は、NHK京都放送局とKBS京都からあり、ローカルニュースとしても取り上げられました。また新聞各社(朝日、毎日、産経、読売、京都)の取材もあり翌朝の朝刊に掲載されました。
そして翌日、国際宇宙ステーションの若田宇宙飛行士から洛陽工業高等学校に向けて、ツイッターでメッセージを発信していただきあらためて感激しました。
(レポート:JM3DUR島村隆久さん)
(1月7日)
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