■NHK『マサカメTV』のスクールコンタクトの舞台裏
NHK総合テレビが毎週土曜日の18:10〜18:42に放送している、『マサカメTV』は、さまざまなテーマに関する情報を単純に解説するだけでなく、ちょっと違った視点からとらえて注目してみようという、小・中学生やその親等をおもな視聴ターゲットとして放送されている情報バラエティー番組です。番組名の『マサカメ』は『まさか!の目のつけどころ』という意味合いです。
アマチュア無線家の皆さんの中には、すでにご存じの方も多いと思いますが、この『マサカメTV』の平成27年2月28日のテーマは「宇宙」で、実質的なメインテーマの一つとなったのは1月24日に同番組の企画で実施された「ARISSスクールコンタクト」でした。
■「宇宙をもっと身近な視点で取り上げたい」
国際宇宙ステーションとのおしゃべり……という発想
『マサカメTV』では「宇宙」という壮大なテーマを「もっと身近に感じられる視点で取り上げられないものか?」と考えたそうで、そのターゲットに上がったのが「国際宇宙ステーションに滞在中の宇宙飛行士と、身近な方法でおしゃべりできないか」という企画です。
これぞ『マサカメ流企画術』(!?)と言ったところですが、この発想はある意味「アマチュア無線を使った国際宇宙ステーションとの交信」にもなぞらえることができます。
▲地上23階建てNHK放送センター屋上から見た、新宿副都心の高層ビル街 |
▲各種のマイクロ中継回線アンテナをバックに今回設営されたクロス八木アンテナ |
平成26年12月の某日、JARL事務局に『マサカメTV』の企画スタッフが訪れ、国際宇宙ステーションとの交信に関する質問を多数受けました。
番組スタッフによれば、JARL事務局に訪れる前に、NHK解説委員室解説主幹の柳澤秀夫さん(右の写真後左)に、今回の企画に関するアドバイスを受けて訪れたとのことでした。ちなみに、NHK総合テレビの朝の情報番組『あさイチ』のメインキャスターの一人として、お茶の間でも人気の柳澤さんは、実はJA7JJNのコールサインを持つたいへん熱心なアマチュア無線家としても有名です。
さて、このときスタッフの方々に、具体的な内容をご説明させていただいたのがARISSスクールコンタクトでした。番組スタッフの方々は、このスクールコンタクトにたいへん大きな興味を抱かれて、JARL事務局を後にされたようです。
『マサカメTV』のスタッフにはこのとき、この分野の第一人者であるARISS運用委員の安田 聖さん(7M3TJZ、右の写真手前左)をご紹介しました。スタッフはさっそく安田さんに、今回の番組企画に関する相談をされたといいます。
そして、安田さんや柳澤さんのアドバイスを受けながら、スクールコンタクトそのものを重要な核とした情報バラエティー番組企画の準備は、「スクールコンタクトの番組内での実施」の方向でどんどん具体的に、とんとん拍子に進んでいったそうです。
平成27年の年始早々にはNASAにより、具体的な実施日時は未確定ながら、『NHK “Masakame” event』のスケジュールが組まれ、その後、実施日が1月24日の深夜に確定しました。
そして『マサカメTV』が選択した交信会場は、ナント!東京都渋谷区のNHK放送センター(地上23階)の屋上(地上高約100m)。交信用に設置したクロス八木アンテナの直近での屋外運用でした。
これまで国内で実施のスクールコンタクトが、屋外で実施されたケースは少なく、49例目の昭島市立つつじが丘南小学校(2011年1月12日、同校校庭)、65例目の和歌山大学宇宙教育研究所(2012年8月26日、同大学電波観測通信施設内)以来です。
放送センター屋上で実施の発想の原点は「あわよくば当日コンタクトの実施中に、上空を周回する国際宇宙ステーションの光跡を撮影できるかもしれない!」というものだったそうです。
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▲交信収録中のようす。ご覧のとおり、国際宇宙ステーションを追尾するクロス八木アンテナ直下での運用だった
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交信用クロス八木アンテナや設備の設営は交信当日の午後から、安田さんや柳澤さんほか、番組スタッフ等の手で開始されましたが、放送センターにそびえ立つ各種中継回線用アンテナをバックにクロス八木アンテナが設営されるようすは圧巻でした。
1月24日の当日、交信をおこなう局は「JK1ZRW(狭山パケット通信クラブ)」で、安田さんが代表者となっている社団局です。交信をおこなうのはあらかじめ同クラブに構成員登録を済ませた「柳澤さん」と「アマチュア無線の資格を持った茗溪学園高等学校・中学校科学部無線工学班の中・高校生たち」です。茗溪学園の中・高校生たちは、深夜の実施にもかかわらず、顧問の中村泰輔先生(JI1RGZ)の引率で、今回の交信に参加してくれました。
この日のビデオ収録は、この回のレポーターを務めるお笑いコンビ「なすなかにし」の那須晃行さん・中西茂樹さん(松竹芸能(株)所属)の2名を、柳澤さんが交信現場の屋上に引率し、国際宇宙ステーションに長期滞在中のサマンサ・クリストフォレッティ宇宙飛行士(ESA、イタリア人)との交信のようすを実演して、交信終了後に柳澤さんが種明かしとしてアマチュア無線の解説をするというスタイルでおこなわれました。
スケジュールの定刻の23:17前から、柳澤さんが宇宙ステーションアマチュア局NA1SSのコールを開始しました(写真右)。呼出開始後の約3分間はNA1SSからのコールバックが得られず、一抹の不安がよぎりました。
これは後日談ですが、安田さんによれば、最初の3分間交信が成立しなかったのは、国際宇宙ステーションが上がってくる方向にちょうど富士山が位置し、この富士山にブロックされた格好になっていたのだそうです。
しかしその後、無事サマンサ宇宙飛行士との交信に成功。柳澤さんや中・高校生たちの質問に回答をもらうことができ、この交信のようすを番組の核の一つとして制作された、2月28日の『マサカメTV「宇宙」』が放送の運びとなったのです。
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▲交信終了後、柳澤さんから今回の国際宇宙ステーションとの交信や、アマチュア無線の説明を受ける参加メンバー(写真左)。写真右は、柳澤さんの説明に大感動の番組レポーターの中西茂樹さんと那須晃行さん。
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なおNHK『マサカメTV』のスクールコンタクトは、国内では79例目です。
また結果として、2月28日の番組放送時にはすべての番組視聴者が観客になってはいるのですが、「交信当日には、交信を見守る一般観客が一人も現場にいなかった」という、非常に珍しい実施ケースとなりました。
ちなみに、ちょっと状況は異なりますが、これまで「交信当日に関係者以外の一般観客がいなかったケース」は、東京電機大学中学校・高等学校無線部(JA1YQZ)が、無線部の日々の部活動の一つとして2009年9月12日に実施した、36例目のスクールコンタクトがあります。
そして、「ARISSスクールコンタクトの実施がニュース放送されたケース」はこれまでも数多くありますが、「ARISSスクールコンタクトを核として、アマチュア無線の楽しさを紹介する番組が制作されて、全国放送となったケース」はこれまで一度もなく極めて珍しいケースで、私たちアマチュア無線家にとって、たいへん喜ばしい出来事と言えるでしょう。
(3月1日)
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