■岐阜県各務原市立那加中学校科学部の生徒たちが国際宇宙ステーションと交信に成功(詳細レポート)
既報の通り、岐阜県各務原市立那加中学校(右の写真)科学部の生徒たちが2018年1月22日、ARISSスクールコンタクトで、国際宇宙ステーションに長期滞在中のマーク・ヴァンデハイ宇宙飛行士(KG5GNP)との交信に成功しました。
単独の学校の無線部や科学部のクラブ活動の一つとしての、ARISSスクールコンタクトの実施は、2009年9月12日の東京都東京電機大学中学校・高等学校無線部JA1YQZが初めてで、2012年10年23日の茗溪学園高等学校・中学校科学部無線工学班JJ1YAFが2例目、2016年10月1日の山梨県山梨学院中学校科学部の3例目と続き、今回の各務ヶ原市立那加中学校科学部は4例目の実施となりました。
このスクールコンタクトでマイクコントローラをつとめた、JO3TND足立太郎さんからこのスクールコンタクトの詳細レポートをお送りいただきましたのでご紹介いたします。
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2018年1月22日、岐阜県各務原市立那加中学校科学部の部員がARISSスクールコンタクトに成功しました。日本での92例目になります。
那加中学校は生徒数615名、創立70周年を迎えた学校です。近隣には航空自衛隊の岐阜基地があり、日本に数機しかない珍しい航空機が離発着したり(航空機が低空を飛行するため、学校の窓は防音ガラスになっています。)、また「岐阜かかみがはら航空宇宙博物館」(愛称「空宙博(そらはく)」)があり、航空・宇宙に関する知識を得る環境が整った地域にある学校です。
◆日本のARISSは、ココ“那加中学校”から始まった?
日本でARISSスクールコンタクトが初めておこなわれたのは、2001年11月の埼玉県入間市の入間市児童センター無線クラブJK1ZAMでした。この日本初の交信からARISSスクールコンタクトに携わっておられる「日本のARISSスクールコンタクトの父?」と言っても過言ではないARISS運用委員の7M3TJZ安田 聖先生(右の写真の左)の母校が今回実施した那加中学校なのです。
安田先生の在校時は科学部に所属しておられたとのことで、当時科学部で同級生だったJN2VQC岩井さん(右の写真の右)は「安田くんは、当時から賢くてね……いつの間にかどんどん遠くへ(進学や仕事で)行ってしまった」「今回、このような形で、安田くんと一緒に科学部の後輩に刺激を与えるイベントが実施できて大変うれしい」と語っています。
◆1つめの奇跡「電話をかけなかったら……那加中ARISSは始まらなかった!」
実は、この那加中学校でのARISSスクールコンタクトの発端は、3年前に安田先生にかかってきた同級生からの同窓会への誘いの電話だったといいます。
同級生たちは、安田先生が海外にたびたび長期滞在しており、日本に帰国されていたのを知っていましたが、おそらく連絡先の電話番号は変わってしまっているだろうとあきらめていたそうです。その中のおひとりが、「まあ掛けてみよう」とかけてみたところ電話が繋がり、同窓会参加となったそうです(安田先生の固定電話番号、海外滞在中も契約してあったとのこと)。
同窓会で「今、何やってるの?」と同級生から聞かれた安田先生は「こんなことやって(ARISSスクールコンタクトで日本各地を飛び回って)遊んでる!」と答えたそうです。
その場で、同窓生のみなさんの心に火がつき、学校、先生、保護者、市役所、教育委員会を巻き込み、ARISSスクールコンタクト実現に向けて盛り上がっていくことになります。
◆2つめの奇跡 「あの“NTTドコモ”がARISSスクールコンタクトに協力!!」
はじまりは、30年前の夏でした。私(JO3TND)は、無線通信に興味を持ち、資格を取得し開局、進学・仕事も縁があって無線通信の世界に進みました。月日が経過した今、感じることは、子どもや学生時代に経験・体験した、たった一つの電子部品のハンダ付けや、たった1回の交信でも、その後の進路や人生は大きく変わるらしいということです。
また自分自身が無線を楽しむだけでなく、このことを多くの青少年に伝えて、無線技術をはじめとした科学技術に対する興味を持つ若者を増やし、次世代の技術者を増やし、未来の日本の技術をささえたい!(だいぶ大げさですが…)と思うようになりました。
そんな思いを持って日々過ごしていた2017年10月のある日、「国際宇宙ステーション(ISS)との交信を通じて青少年に宇宙(理科系)への興味を持たせたい!!」という夢に勤務先の「(株)NTTドコモ」が協力してくれることになりました(右上の写真は応援に駆け付けてくださったNTTドコモ関係者)。
◆2つの奇跡が重なった!!
会社が協力してくれることになりましたが、実施する団体は、すぐには見つかりません。
そこで夢の実現に向けて、私が携わった過去2回のARISSスクールコンタクトである、
日本ボーイスカウトアマチュア無線クラブ(JA1YSS)、第23回世界スカウトジャンボリーの際にお世話になった安田先生に相談したところ、「ちょうどスクールコンタクトを考えている学校がある!」との回答があり、那加中学校で実施する運びとなりました。
学校側でも、「NTTドコモ」が協力してくれるということが実施する後押しとなったようで、1つめと2つめの奇跡が重なり実施へ向けて動き出しました。
◆3つめの奇跡「2エリア東海地方だったから?“臨時局のコールサインは「8J25D」”」
ARISSスクールコンタクトの臨時に開設する社団局のコールサインは、サフィックスが学校のイニシャルなどが用いられるのが通例ですが、「(株)NTTドコモ」が今回のARISSスクールコンタクトを含め、今後もARISSスクールコンタクトを継続するための協力をしてくれたことに対して、感謝の意味を込めて、また那加中学校の同意を得て、「25周年」のNTTドコモの「D」を表すコールサイン「8J25D」となりました。
◆4つめの奇跡「急遽、軒下で眠っていたクロス八木で、いざISSと交信へ!!!!」
▲ルーフタワー組み立て中 |
▲クロス八木アンテナ組み立て中。この後まさかの事態が発生 |
▲軒下から持ってきてもらったクロス八木アンテナ |
交信前日の1月21日に設営を実施しました。ISS向けのアンテナは3階建の校舎の屋上に設置です(上の写真左)。
今回の設備はすべて新たに購入したもので、アンテナはF9FTタイプのクロス八木です。屋上で組み立てが終わった段階で、「給電部はどこ?」という声が上がりました(上の写真中)。
よくよく説明書(英語)を見てみると、垂直偏波面と水平偏波面を結ぶ分配器は「こうやれば作れます」記載が……さすが海外製のものは実践的です(笑)。また「製品の分配器は別売りです。」の記載が……。
いままで日本製のクロス八木しか使ったことがなかったので、分配器は付属しているものであるという頭しかありませんでした。
「どうしよう〜」「作るか!」と困っていたところ、地元、各務原クラブのJE2MBS林さんが、「ウチの軒下に、昔使っていて眠っているマスプロのクロス八木がある!」「持ってくる!」といって屋上から駆け下り車で取りに行ってくださいました(上の写真右)。
クロス八木を持っておられる局は、そもそも非常に少ないと思われ、それがARISSを実施する超ローカル局としていらっしゃったことで非常に助かりました。今から考えると地元の局の協力なくしては今回の成功はありえませんでした。
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会場には地元各務原クラブの協力より、科学部創設時(55年前)勉強した歴史的なラジオなどが展示された(左の写真)ほか、科学部員たちへのPTTの使い方などの事前学習がおこなわれました。 |
◆いよいよ交信本番、なのにトラブル続出!! そして5つめの奇跡が!!!!!
当日になって、ドップラーシフトの自動補正およびアンテナを衛星の方向へ自動的に向けるためのローテータ制御機能が動作しないことが判明しトラブル続出です。
故障切り分けをして時間を費やすことはできないので、ドップラーシフトの自動補正についてはなしでおこなうことにし、ローテータの制御については手動操作し本番を迎えることになりました。
会場は校舎3Fの第1理科室です。来賓、保護者含めて100名ぐらいで満席です(上の写真)。 岐阜新聞、中日新聞、地元ケーブルテレビなどが見守る中で18:55から開会式。
- 生徒あいさつ、科学部長の矢島くん(写真右)
- 講師、来賓紹介
- スタッフ紹介
- 科学部の生徒によるISSの調査結果発表
- 科学部顧問坪内先生による挨拶
そして交信へと進みました。
当初19:23:21からとアナウンスされていましたが、直前になって19:24:16からに開始時間が変更されました。
予定時間の約30秒前になったので無線機のスケルチを開け、少し早いですが、「NA1SS this is 8J25D this is scadule contact over」とコールします。PTTを離した途端、なにかしら音声らしきものが入ってきたので、なかなか幸先いいなあ〜楽勝!と思ったのですが、残念ながらISSからの信号ではありませんでした。
このあともNA1SSを呼び出しますが、 まったく応答はなく時間だけが過ぎていきます。この時間がどれほど長かったことか……。
普通にCQを出して空振りに終わるのは1時間でも2時間でも耐えることができるのですが、目の前に多くの観客がおり、隣には質問をする科学部員たちがいます。
このプレッシャーといったら並大抵のものではありません。コントロールオペレータを経験された方なら理解していただけると思います。
19:27過ぎになって、やっと国際宇宙ステーションのNA1SSから応答がありましたが、こちらのコールサインをHJ25Dと間違って呼ばれて、周波数を変更せよとのこと。
今回は南西から北東に抜けるパスだったので、おそらく台湾近海付近での違法局混信のためにアップリンクが潰されて、「初めの2分間はダメかもしれない」「絶対に周波数は変更してはいけない」と安田先生から事前にアドバイスされていたのでプレッシャーがありながらも、対処することができました。
19:28:20ごろ信号が安定し交信が始まったところ、トラブルではなく大きなサプライズ?「5つめの奇跡が!!!」
その後、順調に質問に対して国際宇宙ステーションの宇宙飛行士から回答を得ることができました。
◆最後に
いくつもの奇跡が重なって、また多くの方のご協力により那加中学校でのARISSスクールコンタクトは成功しました。
今回のARISSスクールコンタクトに協力してくださった無線関係の方々を紹介いたします(敬称略)。ありがとうございました。
(株)NTTドコモ
JA2YOK 各務原アマチュア無線クラブ
JI2YVI ドコモ東海アマチュア無線クラブ
JA3YRA ドコモ関西アマチュア無線クラブ
総務省東海総合通信局無線通信部 陸上課,
電波監理部監視課
アイコム(株) アマチュア無線事業部
なお、当初HAMTV(ISSからのテレビ中継)も予定していたのですが、ISS側の都合で実施は見送りとなりました。今後国内でもHAMTVの中継がおこなわれることを期待しています。
(レポート:JO3TND足立太郎さん)
(3月22日)
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