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佐久市こども未来館で10名の子供たちが、油井亀美也宇宙飛行士との交信に成功(詳報)
既報の通り10月22日、長野県佐久市の佐久市こども未来館プラネタリウムで、ARISSスクールコンタクトが実施され、同館の公募で集まった10名の子供たちが、油井亀美也宇宙飛行士との交信に成功しました。
佐久市こども未来館のスクールコンタクトのとりまとめをおこなったJH0TIS小柳昭喜さんから、貴重な詳細レポートをお送りいただきましたのでご紹介します。
【2015年10月22日、ARISSスクールコンタクト at 佐久市子ども未来館】
1.はじめに
長野県での初めてのARISSスクールコンタクトは2007年に辰野町でおこなわれました。
それを見学に行った私は、その時の中心となったJA0CQP小松さんに初対面ながら、今後実施してみたいと相談しました。
小松さんには快く資料やアドバイスをいただき、その後も県内でおこなわれた今回も含め、4回すべての交信の時に力添えをいただき、とても心強く感じました。
そして、2009年に、長野県南佐久郡川上村出身の油井亀美也さんが、JAXAがおこなった宇宙飛行士選抜試験で選ばれたニュースを見て、「川上村 油井亀美也様」あてに番地なしで、「私は長野県内で教員をやっていて、総合的な学習の時間に宇宙について学習をしています。将来油井さんが宇宙へ行ったら、ぜひ子どもたちと交信をしてください」とハガキを出しました。
すると、油井さんが帰郷した時に、生徒たちと一緒に会ってくれるという返事が届きました。その時にいただいた、「夢と希望」という色紙が、今回の交信に向けて、とても大きな力を与えてくれました。
2.交信まで
「2015年7月に油井さんがISSへ出発する」ということが、2012年秋に決まりました。私はそれまでに、2010年の小諸東中学校と、2012年の長和町立和田小学校とで2回、自分の勤務校でスクールコンタクトを実施してきましたが、今回は長野県出身の油井さんとの交信ということもあり、広く公募して交信を実施したいと考えていました。
そこで、油井さんが講演会をおこなったり、1日館長を務めたりしたこともあった「佐久市子ども未来館」へ、スクールコンタクトの実施を提案したのが、2014年5月でした。館長さんと宇宙少年団佐久分団担当の職員の方に説明をして、実施しようということになり、館長さんが申請書にサインをして、ARISS委員会へ提出しました。
途中で、油井さんの出発が約2カ月延期になりましたが、6年間待った交信でしたので、大きな影響はありませんでした。一部のできごとを除いては………。
3.10月22日18:52(JST)交信開始
交信日が、10月22日に決まったと知らされたのが10月14日でした。軌道変更があり、事前に予告されていた第一候補ではなく、第二候補でした。交信前日の午後に佐久市子ども未来館に4人集まって、アンテナ設置作業をしました。
リハーサルをしてあったのでスムーズにできました。交信当日よりも、前日にやっておいてよかったです。
そして、交信当日は午後1時ごろから集まり、無線機器の設置や動作チェックをおこないました。アンテナの方位や、無線機とプリアンプの動作確認をしたところ、多くの局が聞こえていたので順調に思えました。
ところが交信開始の2時間ほど前に、ふと気が付くと、144MHz帯で1局も聞こえないので驚きました。コネクターかプリアンプの接触不良ではないかと焦りました。
結局、ただ単に誰も出ていなかっただけでしたが、地方ならではのハプニングかもしれません。
交信開始の1時間前になり式典が始まりました。油井さんのお父様が会場に来てくださり紹介がありました。これまでの活動紹介や、最終リハーサルや、館長さんと佐久市長さんのご挨拶と井出庸生衆議院議員からのメッセージ発表があり、いよいよ交信する時刻が近づいてきました。多少前後することもあるので、予定時刻の少し前から呼び出しを始めました。
「NA1SS This is 8N0SDF. NA1SS This is 8N0SDF, 8N0 Saku children's science Dome for the Future.どうぞ」
しばらくすると、復調できない程度のノイズが聞こえてきました。「NA1SS こちらは8N0SDF。今ノイズのようなものが聞こえましたが、こちらの声は聞こえますか。どうぞ」と送信すると、「はい、はっきり聞こえていますよ。楽しみにしていました。お願いします」という油井さんの声が聞こえてきて、ほっとひと安心しました。
最初は遠いので少しノイズ混じりでしたが、高度が上がり距離が近くなるにつれて、信号が強くなり音がクリアになってきました。
リハーサルでは少し声が小さかった女の子も、本番では大きな声で油井さんへの質問を言ってくれました。家庭でも練習を積んできたのでしょう。当日修学旅行で東京から帰る途中だった女の子が一人いました。保護者が、バスが休憩をする高坂PAまで迎えに行って、本人を車に乗せて佐久市子ども未来館に向かってもらい、無事に交信に間に合いました。
油井さんは、一人一人の名前を言って、ていねいに質問に答えてくれました。途中で、「君」と「さん」の言い間違いがあり、私が割り込んで指摘すると、油井さんはすぐに謝って言い直してくれました。会場からは、笑い声が出て和みました。
予定していた10人の質問が終わり、まだ時間があったので、子どもたちへのメッセージを油井さんにお願いしました。「子どものころから夢を持って頑張れば、道は開けるので、皆さん頑張ってください」と言う言葉に続いて、長野県歌「信濃の国」の一節を口ずさんでくれました。この歌は長野県民に親しまれている特別な歌で、それが史上最高の地点から披露されたことは、記念に残ると思います。
また油井さんは最後に、「このようにたくさんの人が宇宙と直接交信したいと思っているだろうし、私もできるだけ協力したいと思っている。私がいなくても他の人が交信してくれるので、よろしくお願いします」というメッセージをいただき、交信が終了しました。
当日の交信のようすは、JH0CFK大森さんが撮ってくれたhttps://www.youtube.com/watch?v=gl6fkE14Rrw&feature=youtu.beをご覧ください。
4,謝辞
10月22日に交信が実施できたのは、多くの方々の協力のお陰です。
佐久市子ども未来館の職員の皆様には、8月のリハーサルでは勤務時間外の夜の時間にもつきあっていただいたり、交信本番の時には、休館日にもかかわらず出勤していただいたり、交信に合わせて「宇宙展」を企画して素晴らしい展示をしてくださり、ご協力には大変感謝しております。
そして交信に参加してくれた10人の小学生と保護者の皆様のご協力もありがたかったです。いろいろな学校から集まったにもかかわらず、記者の方から「君たちは同級生なの」と言われるほど団結できました。その子どもたちや保護者とは、事前学習として7月31日に佐久市のうすだスタードームでの天文施設見学をさせていただきました。
また10月4日には、つくば市のJAXA筑波宇宙センターの見学と、さらに宇宙飛行士訓練体験をさせていただいた(株)AES様には、こちらの要望を聞いていただきとても助かりました。
そのつくば市見学では、信濃物流(株)様に往復のバスでお世話になっただけでなく、川上村長さんに話しをしていただき、川上村でも募集をしていただいて、16人の子どもと村職員の2名の方にも加わっていただいたおかげで、39人の大型バス1台の団体になりました。
当日つくばでは、午前組と午後組で見学順を交替して、体験学習が実施できました。その2回の事前学習とも、ラッキーなことに天候に恵まれて、2回とも全員でISSを目視することができました。
つくば市からの帰りのサービスエリアでISSを見ていた時には、私達だけではなく、偶然そこにいた他の方も一緒に空を見上げました。ISSを見て、油井さんに向かって手を振っていると、その場の全員が一つになれたような気がしました。
さらに、横断幕やQSL印刷を援助してくださった(株)ミマキエンジニアリングさん(仲間のJJ0ACA古川さんの功績大)や地元販売店の山田産業様、報道していただいた県内全テレビ局、新聞各社、特に信濃毎日新聞社様には、事前学習でつくばに同行取材いただき、また詳しく報道していただき大変感謝しております。
さらに信越総合通信局様には、今回とてもお世話になりました。免許の発給だけでなく、交信当日の監視業務に加えて、事前にダウンリンク周波数に出ていたグループ局への対応等でご相談させていただき、大変お世話になりました。
JARDにも、保証認定を迅速に対応いただき助かりました。
そしてもちろん、多くの無線仲間の協力がなければ、交信はできませんでした。県内初のスクールコンタクトを実施したJA0CQP小松さんをはじめ、JG0SXC嘉部さん、JF0BPT澤谷さんには、何度も遠路はるばる来ていただいてお手伝いいただき、今回も前回に続いて私の準備の不十分さを補ってもらいました。特に、JH0WJF矢口さんには、ハード面での物品の提供だけでなく、ソフト面でも、またハート面でも、とても強力に支えてくれました。ソフト面では、今回は特に交信中に子どもの顔写真をスクリーンに映したものがとても好評でした(動画にほとんど映っていなくて残念)。
JA0CRI佐藤さんには、前回に続いて交信中にアンテナを見守っていただきました。ありがとうございます。
JH0CFK大森さんがいなければ、アンテナは建ちませんでした。
JARL信越地方本部長のJF0JYR高橋さん、長野県支部長のJR0LYL藤森さんにも、前回に続いて準備と片づけを手伝っていただきました。藤森さんには、写真撮影もやっていただきました。JARLの役員の方がこのように直接手伝ってくれるスクールコンタクトは、長野県以外にはないのではないでしょうか。「後援JARL」としっかり入れさせていただいてあります。
JJ0ACA古川さんには横断幕を、勤務先にかけあって作っていただきました。この横断幕は全国放送で大きく映りましたので、社名のよいPRになったのではないかと思います。
JJ0LYY Craigさんには宇宙服を着てもらって、本番と事前学習でも、司会進行を軽妙に日英語交えて、おこなっていただきました。JE0IBO糟谷さんには前回に続いてQSLマネージャーとしてお世話になっています。さらに写真撮影も……。
また、今回県内初(全国初?)の試みとしてDATVデジタルアマチュア無線テレビで、交信会場内と外のロビーとの間でJA0GPO寺島さんとJA0KAD松井さんに、公開QSOをしていただきました。
「アマチュア無線でこんなことができるのか」と大いにアピールになりましたし、今後ISSからのDATVの受信にもチャレンジできればと思います。
このほかにも、小諸アマチュア無線クラブの皆様もアンテナの設置や、写真撮影ではJA0NZR富岡ドクターにご協力をいただきました。
私の元同僚も来て手伝ってくれましたし、2009年にスクールコンタクト(岐阜県関市立武芸川中学校)を
見学させていただいたJI2HVT舩戸先生からは、今回も精神面でのサポートをいただきました。
7M3TJZ安田さんには、こちらからの細かい質問に迅速かつ的確にいつも答えていただき、他にも多くの仲間の協力と、それぞれの家族の協力と理解もあって実施できました。
さらに嬉しいことに、3回目にして初めて子どもたちの中から「アマチュア無線の免許を取りたい」という声が上がり、私は経験がなく手探りの状態でしたが、小諸クラブ(JR0CGJ清水会長さん)やJA0GPT植松さんはじめメンバーの皆さんとJARD様の協力のお陰で、12月に講習会が開催できることになりました。最低限の人数が集まるか心配でしたが、販売店での声がけのおかげもあり、現在順調に集まっていて、まもなく定員に達しそうです。
最後に、今回交信してくれたKG5BPH油井亀美也さんに感謝いたします。6年前にいただいた、「夢と希望」の色紙がなければ、今回の交信に向けてのさまざまな困難を、乗り切ることができなかったと思います。皆さん、ありがとうございました。
(レポート:JH0TIS小柳昭喜さん)
(11月30日)
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