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国際宇宙ステーションに長期滞在中の大西卓哉宇宙飛行士とのアマチュア無線の一般交信に2名のアマチュア無線家が成功
▲「きぼう」日本実験棟の船内実験室での大西宇宙飛行士(写真提供:JAXA/NASA)
8月29日、京都市在住のJM3DUR島村隆久さんと、JH3BUM石原正次さんが、国際宇宙ステーションに長期滞在中の大西卓哉宇宙飛行士との交信に成功しました。今回のお二人の交信は、国際宇宙ステーションのアマチュア局NA1SS側からの呼出に応答した通常の交信です。
これまで日本国内で国際宇宙ステーションに滞在中の宇宙飛行士との一般交信がおこなわれたケースは少なく、2006年1月14日・15日にビル・マッカーサー宇宙飛行士が実施しました。このときは、JN1GKZ新井雅裕さんやJH3BUM石原正次さん等が交信に成功されています。
また詳細は確認できていませんが、インターネット上などでは2009年ごろに、マイク・フィンク宇宙飛行士(少しですが日本語を話すことができます)や若田光一宇宙飛行士が、日本のアマチュア無線家の方と一般交信をおこなった記録が見られるようです。
一つだけ確実に言えるのは、「ARISSスクールコンタクト以外で、ISSに長期滞在中の宇宙飛行士によって、日本国内を対象としたアマチュア無線による一般交信がおこなわれるケースはかなり珍しい」ということです。
今後も、大西宇宙飛行士をはじめISSに滞在の宇宙飛行士の方による一般交信の実施に大いに期待したいところですね。
【ARISSの交信とコールサイン】
アマチュア無線家の間では「ARISSの交信」というと「スクールコンタクト」をイメージされる方が多いようですが、実は次の3種類に分けられています。
- 日時を決めておこなう学校交信:スクールコンタクト(Scheduled School Contact)
- 宇宙飛行士の希望する相手との交信(Crew QSO)
- 一般交信(General QSO)
これらは、アマチュア無線の免許を持った宇宙飛行士により、1と2は、勤務時間内に、3は余暇時間におこなわれます。
なお、ISS上のアマチュア局のコールサインは、DP0ISS(ドイツ)、NA1SS(アメリカ)、OR4ISS(ベルギー)、RS0ISS(ロシア)が使われています。
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大西卓哉宇宙飛行士との一般交信に成功された、島村隆久さんから当日の交信に関する、詳細レポートをお送りいただきましたのでご紹介しましょう。
■JM3DUR島村隆久さんのレポート
8月28日(日)、午後から大阪府池田市の池田市民文化会館で、今年の関西アマチュア無線フェスティバルKANHAM2016の反省会があり、夕方には打上げ会が大阪伊丹空港の展望レストランで開催され、KANHAMスタッフ十数名が集まっていました(上左の写真)。
そこでANAの飛行機を見ながら(ちなみに、大西宇宙飛行士の前職はANAのパイロットです……)飲んでいたときに、私が『大山町立大山小学校でのスクールコンタクトの後、google+の大西宇宙飛行士のメッセージに「一般交信がしたい」という内容が記されていた』ことを話題にしました。
すると、JL3JRY屋田純喜KANHAM実行委員長から「大西宇宙飛行士にリクエストしてみたら?」という意見が出たので、さっそくスマホのアプリを使って次のパスを調べてみると、日本時間の翌日(8月29日)06:38ごろから約10分間のパスがあることに気づきました。
「これは国際宇宙ステーションタイムでは28日(日)の21:38ごろだなぁ?ということは、国際宇宙ステーションでは休日の自由時間だから、交信のチャンスがあるかもしれない?」と、ほろ酔いの勢いもあって、その場で大西宇宙飛行士のブログに、ダメモトで次のようなメッセージを書きこんでみました。
大西さん、私は宇宙へアンテナを向けてアマチュア無線を楽しんでいます。
宇宙ステーションの大西さんとぜひアマチュア無線で交信したいと思っています。
次回(国際宇宙ステーションで)、今晩21時38分ぐらいに日本上空を通過されるようですね。聞いてみたいと思っています。ぜひご連絡をお待ちします。
島村隆久 京都市
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とりあえず確証はありませんが、KANHAM実行委員会スタッフにもこの情報を流しました。
家に帰ってから周波数(受信:145.80MHz、送信:144.49MHz)をメモリーしておいて、翌日8月29日の06:00の目覚ましをセットして寝ました。
翌朝目が覚めていよいよ、「まさか?聞いていないだろな〜」と思いつつスタンバイし、パスが近づく06:35ごろからアンテナの追尾を開始しました。
使用するトランシーバーには、普段衛星通信用に使っているトランシーバーではなく、交信内容がデジタルレコーディングできるIC-7100Mを使うことにしました。
そして国際宇宙ステーションが上空に見え始めた06:41ごろです。なんと大西宇宙飛行士の呼出が聞こえてきたのです。
その後、大西宇宙飛行士と私が交わした交信は次のような内容です。
- NA1SS…
「こちらはNA1SS、国際宇宙ステーションです。日本の方いらっしゃいますか?」
- JM3DUR…
「NA1SSこちらは、JM3DUR京都からです。とれますか?どうぞ」
- NA1SS…
「はい、よく聞こえます。そちらはどうですか?」
- JM3DUR…
「こちらも良好に聞こえております〜。おはようございます、こんばんは。京都市の島村と申します。どうも交信ありがとうございます。どうぞ」
- NA1SS…
「いえいえ、とんでもないです。こちらこそ、ありがとうございます。はじめてです、アマチュア無線で話をするのは。何回かトライしたのですがやっぱり時差の関係とかで難しかったです」
- JM3DUR…
「はい了解です。私も何度か呼んではいたんですけど、なかなかつながらなくて、今回つながって光栄に思っております。またお時間あるときに交信していただきたいと思っております。レポートは59でした。NA1SS大西宇宙飛行士、こちらはJM3DURでした」
- NA1SS…
「はいどうもありがとうございました。またよろしくお願いします」
- JM3DUR…
「ありがとうございました。また他にもお聞きの方がいらっしゃると思いますので呼んでみてください」
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そして次にJH3BUM石原さんも、大西宇宙飛行士をコールされて交信ができました。
その後もしばらくの間、聞いていましたが、今回は私と石原さんの2局だけが交信に成功したようでした。大変ラッキーでした。
大西宇宙飛行士がブログを読んでくださって、リクエスト通りに出てきていただいたことについては「まさか」と思いましたが、とてもうれしかったです。
これからも日曜の夜(日本時間では月曜日の早朝)に、日本上空を通過するパスがあるときは、ぜひワッチしてみたいと思います。
日本人宇宙飛行士によるアマチュア無線の一般交信の前例について、インターネットなどを調べてみますと、2009年3月24日におこなわれたアメリカ人クルー(マイク・フィンク宇宙飛行士)とJR6LDE三ヶ島靖男さんとの一般交信の際に、このころちょうど初の長期滞在が始まった日本人宇宙飛行士の若田光一さんとオペレータチェンジをされて交信した、という記録が見られます。
しかし、歴代の日本人宇宙飛行士で宇宙飛行士自らが呼出をおこなって交信が実施されたケースは、南極昭和基地8J1RLとのクルーQSO成功させた野口聡一宇宙飛行士の交信例以外は見かけることができませんでした。
今回の大西宇宙飛行士による一般交信は、一人のアマチュア無線家のブログへのリクエストの書き込みを、見てくださった大西宇宙飛行士自身が、積極的に呼びかけていただき交信に至ったものです。
大西宇宙飛行士の今回の試みは、日本のアマチュア無線界にとっても、たいへん喜ばしいことでもあり、夢いっぱいの、より一層交信への興味をそそられる出来事ではないかと思っています。
これからも、大西宇宙飛行士をはじめISSに長期滞在の宇宙飛行士の方々との一般交信のチャンスがあるかもしれません。
みなさんも、そんな次なるチャンスの到来の時を願って、まずは日頃からマメなワッチに取り組んでみてはいかがでしょうか。
【野口聡一宇宙飛行士は南極昭和基地8J1RLとクルーQSO(2010年4月29日)】
日本国内の一般のアマチュア局との交信ではありませんが、野口聡一宇宙飛行士は第22次/第23次長期滞在期間の、2010年4月29日(昭和の日)に、南極昭和基地第51次越冬隊隊員の方が運用する南極昭和基地(8J1RL)とクルーQSO(宇宙飛行士が希望する相手との交信)により交信に成功しました。
「昭和の日にアマチュア無線でおこなわれた、昭和基地と国際宇宙ステーションとの交信」という、アマチュア無線の世界にとっても楽しいニュースでした。
このQSOは、当時国際宇宙ステーションとの交信世界最南端記録となりました(それ以前の記録は、前出のビル・マッカーサー宇宙飛行士により、2006年2月13日に実施された、ピーター1世島DXペディション3Y0Xとの交信でした)。
▽詳細
http://www.jarl.org/Japanese/2_Joho/News2010/2010_news-5.htm#0513
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レポート:JM3DUR島村隆久さん
NPO日本アマチュア衛星通信協会(JAMSAT)理事、
関西ARISSプロジェクトチーム、 JARL京都府支部幹事、JARL京都クラブ
(9月2日)
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