夏休みも残りわずかになった8月25日(金)の夕方、宮城県仙台市立吉成中学校(佐藤政男校長)で、同校1年生から3年生の25名が8J7YJHの臨時局で、国際宇宙ステーション(以下ISS)のアマチュア無線局NA1SSを運用するジェフリー・ウイリアムス宇宙飛行士との交信に成功しました。
この計画は、昨年2月にアマチュア衛星通信を愛好する保護者から提案があり、同年4月にPTAの協力のもとで実施することが決定しました。
★彡 中学校の総合学習活動の一つとして実施
さっそく臨時局開局、衛星通信部分を主に担当するアマチュア無線家から成る支援者チームを結成し、ARISS日本の運用委員、安田 聖(7M3TJZ)さんの指導を仰ぎながら、NASA(米国航空宇宙局)への申請手続きを昨年7月に実施しました。
同時に同校では、翌年になる2006年度の総合学習の一環としてスクールコンタクトを位置づけ、そのカリキュラムの作成を昨年度中におこないました。
支援者チームでは資機材を学校に持参して、国内スクールコンタクトの受信デモを3回開催するとともに、海外での交信もエコーリンク経由で受信する等、実際の雰囲気を経験してもらいました。
本年4月以降は次の3回の講演会を開催し、生徒たちは宇宙や無線に関する指導を受けました。
- 第1回:「スクールコンタクトについて」
講師:安田 聖氏(7M3TJZ)一橋大学教授
- 第2回:「無線通信について」
講師:脇山俊一郎氏(JH7IMX)仙台電波工業高等専門学校教授)
- 第3回:「宇宙ロボットとデモンストレーション」
講師:永谷圭司氏 東北大学大学院助教授
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★彡 各チームにわかれて活動した生徒たち
生徒たちは、学年に関係なく生徒の自主的な参加として、ISSのプラモデル(745mm×500mm×406mm、ドイツ製)製作チーム、自動追尾アンテナ・タワー建設補助チーム、簡易八木アンテナ製作・受信チーム、会場設営チーム、そして交信チームにわかれて活動を続けてきました。
ISSプラモデル製作チームは、すべて英文の製作説明書の翻訳から始まり、ISSのどこに何があるかまで細部にわたりわかるようになり、その完成品は交信会場の卓上に華を添えることになりました。
自動追尾アンテナ・タワー建設補助チームは、仙台電波工業高専アマチュア無線部(JA7YCQ)部員の指導を通して、テレビアンテナに比べてはるかに大きいアンテナに驚きつつ、安全に建設されるようすを、手伝いを通して知ることができました。
簡易八木アンテナ製作・受信チームは、ISSからの電波を自ら直接受信することを目的に、受信用八木アンテナを仙台電波工業高専アマチュア無線部員の指導で製作。当日の受信にも成功し、後日、生徒各人がSWLカードの申請をおこなう予定です。
▲八木アンテナ製作・受信チームはISSの直接受信 | ▲当日は地元テレビ局等の取材が入った |
会場設営チームは、美術部員がメインとなり、会場の飾りなどを担当してくれました。
当日のスクールコンタクト・セレモニーを盛り上げてくれるブラスバンド部も猛練習を重ねてくれ、同時通訳和文表示では、キー操作に卓越した生徒が担当しました。
交信チームの25名は、夏休み中、英語による質問練習を繰り返しました。わずか5〜10秒程度の質問に対して繰り返し練習し、ALT(外国人の英語指導助手)から発音指導を受け、さらに、「間髪なく、大きく、はっきりと話せる」よう実際にマイクを握り、時間を短縮するチーム・プレイを念頭に練習を重ねてきました(ダミーロード使用)。
★彡 心ない妨害電波に苦闘するも何とか交信に成功
そして、交信1時間前から最終リハーサルをおこない、交信開始時間を待ちました。
会場設営の関係から、交信する無線室と視聴する体育館にわかれ、無線室の状況は体育館に映像として流れるよう仙台電波工業高専脇山研究室の学生が設備設置、運営をおこないました。
交信開始時刻10秒前からコントロールオペレータの宮川季士さん(JE7KQU)がNA1SSの呼び出しを始めました。交信予定開始時刻から10秒後に、強力で非常にクリアーなジェフリー・ウイリアムス宇宙飛行士の第一声が聞こえた瞬間、「つながった」と無線室や体育館で固唾を呑んで聞き入っていた皆が感動していました。お互いに、最良値のレポート交換により国内では22番目で東北では初めてのスクールコンタクトが成立しました。
その後、質問が始められ、これまで練習を重ねてきた成果を発揮し、地球上の最高の科学技術が蓄積した現場から直接、回答が帰ってくる体験を体育館の生徒、保護者、来賓とともに堪能するはずでした。
ところが二人目の回答の途中から明らかな妨害電波(無変調波)が発射され、受信ができなくなり交信がスムースに進まなくなってしまいました。
原因は不明ですが、その後送信した宮川さんの呼びかけや生徒の質問の音声が途切れて聞き取れないとの返答が繰り返されました。このため両者共に了解度が相当下がった状態で交信を続けることになったものの、終了間際にようやく回復して、結局7人の質問に対して5人の回答を得るに止まりました。
同校の担当教師が今回のためにアマチュア無線の資格を取得し臨時局開局に備え、総合学習の一環として夏休み返上で活動や準備を重ねてきた多くの生徒が質問できず残念でした。交信最初の部分と終了間際部分においてノイズのほとんどない非常に良い受信状態であったことから、途中の妨害電波(無変調波)の存在に対して、生徒はもちろん関係者一同大きな落胆を禁じ得ませんでした。
しかし、ごくわずかの時間ではありましたが、本物と接する機会を多くの生徒、教職員、保護者、支援者とともに体験でき、また、これまでの準備及び講演会等を通した宇宙や無線に対する理解を深める機会があり、継続的な活動に対して満足してもらえたのではないかと思っています。
各報道機関からも関心を示していただき、在仙の全国、地元、専門の新聞各社の継続的な記事掲載はもとより、テレビ各局においてもニュース枠を超えた「特集」として報道していただきました。
最後に、今回の吉成中学校のスクールコンタクト活動に協力してくださった方々を紹介いたします(敬称略)。
JA7DNJ、JA7DNO、JA7JZS、JA7KCL、JA7UQB、JA7XBA、JH7IMX、JE7KQU、JF7OSJ、7M3TJZ、増井三千代、
マヤ・ステンズバーグ、英語練習指導の皆さん(保護者等)、東北大学大学院吉田研究室の皆さん、
仙台電波工業高等専門学校の学生の皆さん、JARL宮城県支部監査指導委員の皆さん、吉成中学校PTA役員の皆さん、
吉成中学校教職員の皆さん
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▲交信の順番を待つ生徒たち | ▲スクールコンタクト終了後の記念撮影! |
(レポート:JA7JZS芝山正登さん) (9月6日)
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